間違っているのは市場か中銀か

 先日、日銀の動向に詳しい方とお話する機会があり、その際に市場が間違ってるのか、それとも中央銀行が間違っているのか、ということが話題となった。

 22日のジャクソンホールでのイエレンFRB議長の講演内容は、予想されたように利上げの時期に言質を与えないものとなった。しかし、もともとイエレン議長はハト派(金融引き締めには慎重派)とされていた上に、ジャクソンホールの前に公表されていたFOMC議事要旨が利上げを意識させる内容となっていたことで、ハト的なバランスを取るとの見方もあった。しかし、その内容は中立ではあるが、利上げの可能性を意識させるものとなっていた。

 FRBの内部でも利上げに向けた下地をつくろうとする機運が高まっているとの報道も出ており、アトランタ連銀のロックハート総裁はロイターとのインタビューで、来年前半から半ばの利上げ開始をFRB内で本格的に議論していると述べていた。

 市場では今年10月のテーパリング終了と、来年のFRBの利上げを織り込みにきていると思われるが、それにあまり反応していない市場が存在している。金利に直接関わるはずの米国債券市場である。テーパリング開始で米長期金利は一時3%をつけたものの、その後、テーパリングは着々と進み、利上げが視野に入っているにも関わらず、米長期金利は2.4%あたりでうろうろしている。

 テーパリングが開始されたということは、月々のFRBによる米国債やMBSの買いが減少していることになる。それでも米国債が下落しないのは、その分の買い手が存在しているためともいえる。それは誰なのか。リーマン・ショック、欧州の信用不安に代表されるふたつの大きな危機により、金融機関などはより安全な資産を購入せざるを得なくなったにも関わらず、格付け等からの安全資産の割合が減少しており、その分、米国債への需要が存在しているのでは、との声も聞こえた。

 確かに個別の需給関係が相場に影響を与えるにしても、そもそも米国債には安全資産としての需要が存在している。さらにFRBによる買いだけでなく、そのQEをせざるを得なかった状況によるリスク回避の動きも影響していたはずである。それに伴い、米長期金利は2%を大きく割り込んだ。その際、FRBに国債は買われてしまった上に、金利の低さもあり、別の資産に資金を投じた投資家もいたと思われる。

 テーパリングの開始で米長期金利は多少なり上昇したこともあり、FRBに代わり米国債を購入する投資家が再び現れていたとしてもおかしくはない。このためテーパリングが着々と進んでも米国債の需給は揺るぎもしないということになるのかもしれない。

 それでも利上げが意識されているにも関わらず、米国債はそれを材料視して売られないのか。米国債が売られないということは、利上げなどできるわけはない、との見方が反映されたものとの見方もできる。先行きのファンダメンタルズの予想は市場が正しく、FRBが正常化を急ぎたいあまり期待ばかり先行させているとの見方もできなくはない。しかし、ファンダメンタルズの予想については、民間予想よりも中央銀行に分があることは確かであろう。特にFRBは人も手間もかけている上、自らも経済指標を発表する立場にもいる。

 長らく利上げを経験しておらず、それにどう反応すべきかわからないという面もないとはいえないが、米長期金利が落ち着いている理由としては、利上げを織り込みに行くことは時期尚早と考えているためではなかろうか。

 利上げについて本格的な議論が始まり、具体的な時期について、はっきりとした予想が出てくれば、長期金利にも影響を与えうる。ただし、その利上げ幅は0.25%程度に抑えられるとならば、自ずと米長期金利の上昇幅もそれほど大きくなることは考えづらい。

 そもそも論として、長期金利にもっとも影響を与えているのは中央銀行の政策金利であるとの見方もできる。それを如術に表しているのが日本の長期金利ではあるが、それについては後日確認するとして、FRBの政策金利が変更されると確信されるまでは、米長期金利の低位安定は続く可能性はある。むろん、そこに何らかのリスクプレミアムがオンされるとなれば話は違ってくる。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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