空気が変わってきた欧州市場
8月7日の欧米市場、特に欧州市場では少し不自然な動きが出ていた。あくまで不自然とみたのは個人的な感想であり、マーケットを動かす材料はいくつもあり、その比重も変化していくことは重々承知している。しかし、リスク回避という言葉だけで説明してよいものであったのか。
7日の欧州の市場動向とその材料とされたものを確認してみたい。ロシアがウクライナ東部との国境付近に部隊を集結されており、その集結場所はロシアがクリミアを併合した時点よりウクライナの領土に近いところとの情報もあった。さらにドイツを訪問中のヘーゲル米国防長官は会見で、「ロシアによるウクライナ侵攻の脅威は現実的。ロシア軍がウクライナ侵入する可能性はある」と述べたとも伝わった。このウクライナの問題が、リスク回避の動きを強めたと思われるが、それにしては欧州の株式市場は下げたものの、米国の株式市場はほとんど動揺を示していなかった。外為市場ではユーロが下落し、安全資産として円が買われる構図となったものの、それほど大きな動きが出ていたわけではない。
ロシア政府は米国の全農産物とEUの全ての野菜と果物の輸入を禁止する措置を導入へとの報道もあった。ロシアに対する経済制裁はユーロ圏の経済にはマイナスの影響を与える可能性があり、これも懸念材料となっている。
その欧州の景気に対しても昨日はあらためて懸念が強まっていた。昨日発表された6月のドイツ製造業受注は前月比3.2%減少と予想に反して大幅減少となった。加えてイタリアの4~6月期GDPは前期比0.2%減と2期連続のマイナス成長となり、イタリアのリセッション入りが確認された。これだけで欧州経済が悪化していると決めつけるわけにはいかないが、ポルトガルではBESを巡って、その救済に関しほかの国内銀行への負担もあるのではないかとの思惑も出ていた。このあたりの動きは日本の不良債権処理問題を彷彿とさせる。たしかに欧州については、いくつかの懸念材料が出ていることは確かである。
昨日の欧州の債券市場ではドイツ国債は買われ、ドイツの10年債利回りは一時1.095%と過去最低を記録していた。英国債も買われ、10年債利回りは2.51%に低下した。これらの動きはリスク回避との説明となろう。しかし、米債は10年債利回りが一時2.43%まで低下したものの、2.47%近辺と居所は大きく変わっていなかった。
そして、イタリアやスペイン、さらにギリシャの国債は売られていた。実はこの動きに違和感があったのである。
イタリアのGDPがプラス予想であったのが、結果はマイナスとなり、リセッション入りが確定した。それにもかかわらずイタリアの国債が売られたのである。これはなかなか納得できる説明は難しい。景気の悪化は債券にとっては買い材料となるはずである。しかも、7日にはECB政策理事会の開催も控えている。ECBの追加緩和はよほどのことがない限り、難しいとみているが、それでも市場はユーロ圏の景気低迷、リスクの増加等を理由に通常であれば、追加緩和観測が多少なり出たとしてもおかしくない。もちろんドイツ国債の買いにはその思惑もあったかもしれないが、なぜイタリアの国債は売られたのか。スペインやギリシャと一緒に売られたところをみると、再びユーロ圏の信用不安のような危機が起きるようなことを想定していたのであろうか。
ただし、イタリアなどの国債下落については、一時過去最低水準まで低下していたことでの反動との見方もできる。高値警戒による売りとの見方も可能かもしれない。しかし、過去利回りが最低水準まで低下したドイツの10年債には高値警戒はないということになるのであろうか。たしかに0.5%近辺まで10年債利回りが低下している国のことを考えると、イタリアはイタリア、ドイツはドイツ、日本は日本ということなのかもしれないが。
7日にはイングランド銀行のMPCも開催される。イングランド銀行は年内の利上げを見据えて、その示唆も可能性もあるなか、6日に英国債は大きく買われる事態となっている。昨日の英国債の動きだけみると、年内の利上げ観測が大きく後退したかのようであった。
このように6日の特に欧州市場の動きからは、少し空気が変わってきたかに思われる。特に不安がなければ、中央銀行の金融政策に焦点があてられるはずのところ、そこに焦点があたらなくなるほど、ほかの不安要因が強まってきたともいえるのかもしれない。これが一時的なものであるのか、ここから相場に変化が出るのか。少し注意してみておく必要がありそうである。