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FRBのメンバー交代と利上げに向けた姿勢

久保田博幸金融アナリスト

6月17日から18日にかけてのFOMCから、一部の参加メンバーが代わった。5月28日付でスタイン理事が退任したが、6月12日に米上院本会議はパウエル理事の再任とともに、あのブレイナード前財務次官(国際問題担当)、そして大御所のフィッシャー理事の副議長指名も承認された。

これにより、現在のFRB理事の布陣は、ジャネット・イエレン議長、スタンレー・フィッシャー副議長、そしてダニエル・タルーロ理事、ジェローム・パウエル理事、ラエル・ブレイナード理事となる。FRBの理事会は7人の理事で構成されるが、現在空席が2つある。こちらについてはいまのところ特に発表はない。

今年のFOMCで投票権を有しているクリーブランド地区連銀総裁は6月1日付けでピアナルト氏に代わりフィラデルフィア地区連銀の調査部ディレクター、ロレッタ・メスター氏が就任している。

今回のFOMCでは米国債とMBSの毎月の買入額を100億ドル縮小し、350億ドルにすることを決定した。予定通りに淡々とテーパリングは進行している。このペースで行くと7月29~30日のFOMCで毎月の買入額を250億ドルに減少させ、9月16~17日に150億ドル、10月28~29日に150億ドルを一気に減らしてゼロとすれば、秋のうちに終了することが予想される。

テーパリングによる米国債への影響はほとんどなく、市場参加者の視線はテーパリング終了後の利上げの時期に移ってきており、テーパリングについては特に大きなアクシデントでもない限り10月に終了するのではなかろうか。

その利上げの時期を占う上で、FOMCの景気・金利の見通し、さらに今回予定されていたイエレン議長の記者会見の内容に注目が集まった。今年の米成長率については2.9%程度から2.1~2.3%に下方修正したが2015年、2016年については修正はなかった。イエレン議長は会見で「経済活動は第2四半期に持ち直しており、緩やかなペースで拡大が継続する」との見方を示した。

イエレン議長は記者会見において、利上げの時期については当面(considerable time)が意味するものに機械的な公式などないということであり、すなわち経済動向次第だと述べた。出口もしくはその他の政策パッケージの側面について、これまでの議論で大いなる進展はあったものの、まだ結論には達していないとした。また、利上げが適切な時期が訪れた際、短期金利を引き上げるのに必要な手段を有しており、利上げ後しばらくの間非常に大規模なバランスシートを維持するとしても、短期金利水準をコントロールできる手段を有していることにも自信があるとした(ロイター)。

イエレン議長は就任後初の3月の会見において、政策金利引き上げ時期に関してテーパリング終了から約6カ月後に行われる可能性があると示唆した。これは失言であったとされ、この発言による市場への影響も出ていたことで、それ以降、イエレン議長は利上げ時期については慎重に言葉を選んでいる。しかし、FOMVメンバーの多くが2015年中の利上げの可能性を予想していることから、来年前半での利上げの可能性は高いと考えられる。

今後のFOMCで注目すべきは、スタンレー・フィッシャー副議長の存在かもしれない。フィッシャー氏は米国とイスラエルの両国籍を持ち、昨年6月まではイスラエル銀行の総裁だった。バーナンキFRB議長やドラギECB総裁などを教えた大学教授だけでなく、世界銀行チーフエコノミスト、IMF筆頭副専務理事、民間銀行などで実務も経験している。

イエレン議長をどのようなかたちで支えてくるのか。フィッシャー氏はフォワード・ガイダンスに対して過去に慎重な姿勢を示しており、FRBのアナウンスメント効果を意識した市場との対話に微妙な変化が生じる可能性もある。利上げについては来年前半あたりを目安にスケジュールを組みながら、市場に配慮してタカ派的な色彩をなるべく排除しようとしているのが現在のFRBの姿にも見える。しかし、いずれ利上げそのものを市場に織り込ませる必要もあり、そのあたりの手腕も今後は問われることとなる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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