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日銀総裁会見の影響とイエレン議長失言疑惑

久保田博幸金融アナリスト

日銀金融政策決定会合後の総裁会見は、15時半からスタートするが、これまではそれが終了後にその内容が会見場にいた記者からQUICKなどを通じて配信されていた。ところが、4月8日の会見からはリアルタイムで会見内容が報じられることになり、会見そのものも日経新聞のサイトなどを通じて動画配信されることになった。

日銀は3月24日に次のようなコメントを出していた。

「日本銀行は、総裁定例記者会見の報道解禁のタイミングを、これまで「会見終了後」としてきましたが、情報発信を速やかに行う観点から、4月8日(火)の定例記者会見より、会見開始と同時に報道可とする扱いに変更することとしましたのでお知らせします。 なお、総裁定例記者会見以外の会見についても、原則として、会見開始と同時に報道可とする方針です。」

8日の金融政策決定会合では、予想通りの現状維持が決定された。このため、それほど総裁会見内容に注目が集まっていたとは思われなかったが(現実はやや違っていたようである)、昨年4月の量的・質的緩和から1年を経過したこと、さらに今回からリアルタイムで報じられることになったこともあって、市場参加者の総裁会見への関心は高くなり、私も動画配信での生中継を見ていた。

会見内容については、すでに新聞等でも報じられており、いずれ日銀のサイトにも会見要旨がアップされると思うので、そちらを確認いただきたいが、印象としては総裁はだいぶ自信を持っているなというものであった。

今回から会見がリアルタイムで報じられ、動画配信もされることについての質問があり、総裁はネクタイの色を気にした程度と軽く受け流したが、それなりに意識はしていたと思われる。それでも特に緊張の色も見られず、記者の質問にも淡々と受け答えをしていた。前任者の白川総裁が理路整然とした受け答えをしていたのに対し、どちらかといえば、黒田総裁はわかりやすい説明を心がけていたとの印象である。

結果から言えば、このリアルタイムの総裁会見に市場は大きく反応した。外為市場では円高が進行し、ドル円は101円台に入ることになる。黒田総裁が「追加緩和については現時点では考えていない」と自信を持って答えていたことがきっかけとなった。消費増税等の影響もあり、今回の追加緩和はさておき、7月あたりの追加緩和の可能性を意識していた市場参加者も多かったようであるが、その観測を吹き飛ばすような黒田総裁の自信を持っての発言であった。言葉の内容だけでなく、今回は総裁の表情等も確認でき、それも意識されて早期の追加緩和観測が後退したと考えられる。

会見での総裁の発言そのものや表情まで確認できるとなると、市場も端末から流れる記者がまとめたフラッシュ記事ではなく、直接、総裁のコメントを確認して相場を動かすことができる。人によって印象の取り方は異なるかもしれないが、文字だけの情報ではないものも確認できるようになったことは、市場への影響も変わってくるかもしれない。

ここで思ったことは、3月19日のFOMC後の会見でイエレン議長は質問に答える格好で、利上げまでの「相当の期間」についての記者からの質問に対し、その相当の期間とは「Around Six Months」と答えたとき、どのような表情をしていたのかということであった。この発言はポロっと出たものなのか、それとも質問を想定して答えていたものなのか、その表情はどのようなものであったのか。

昨日発表された3月18~19日に開催されたFOMCの議事要旨によると、2016年末に向けての政策金利見通しが若干上振れしていたが、これに対して、数人の委員から市場が過度に反応しないかの懸念が出ていた。そんな懸念があったにも関わらず、FOMC後の会見でイエレン議長は、利上げまでの相当の期間について、Around Six Monthsと答えたことになる。どうやらこれはやや不注意な発言であった可能性も出てきた。やはりそのときの表情が気になる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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