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新興国が新たな火種となるのか

久保田博幸金融アナリスト

世界の金融市場がまた怪しげな動きをし始めた。24日に外為市場でアルゼンチン・ペソが2002年以来の大幅安となり、アルゼンチンは24日に為替管理を緩和すると発表し、ドル買いへの税率を引き下げ、普通預金口座でドルの購入を認めた。このような小手先の手段で市場の動揺が収まるとも思えないが、このままアルゼンチン・ショックと呼ばれるものが発生するのかどうかはまだ不透明である。

これまでアルゼンチンは通貨下落を防ぐために自国通貨を買い支えてきたが、その介入の結果、外貨準備高が約294億ドルとピークの2010年末から4割強も減少した(25日付け日経新聞)。このため介入により通貨下落を防ぐことが難しくなったとの観測が強まり、22日にはアルゼンチン中央銀行の介入が実施されず、まさにペソが狙い撃ちされた。27日の下げ幅は、1日としては2002年の金融危機以来最大になった。

トルコは政府の汚職スキャンダルなどもあり、政情不安などからトルコ・リアが急落した。トルコ中央銀行は23日に為替市場で2年ぶりの直接介入を実施したものの、下げ止まらず、むしろトルコ中央銀行の先週の会合での金利据え置き決定がひとつの要因となり、27日の外為市場でトルコ・リラは一時最安値を更新した。ただし、その後トルコ中央銀行が緊急の金融政策決定会合を28日に開催すると発表し、この発表を受けて利上げ観測が強まり、リラは急反発した。

中国の動向も注意が必要であり、シャドーバンキングへの懸念も燻っている。ただし、こちらは問題とされた中国の中誠信託の高利回り信託商品の償還については、デフォルトが回避された模様である。

今回のアルゼンチンなどの新興国通貨の下落要因として、23日に発表された1月の中国製造業PMI速報値が悪化したことも挙げられていた。欧州の信用不安がアルゼンチンなどに飛び火しなかったのは、通貨の買い支えが効いていたとの指摘もあるが、市場の注目度が極度に欧州に集中していたことも要因であった。ところがその欧州の信用不安が潮を引くように後退すると、アルゼンチンやトルコ、さらには中国などのリスクがあらためて見えてきたのである。FRBのテーパリング開始決定で、新興国に投資されたマネーが引き上げられる懸念も背景にあった。

欧州の信用不安のきっかけとなったギリシャ・ショックはギリシャの債務の操作が明らかとなり、ギリシャへの信認が一気に崩れギリシャの国債が急落した。同様に債務に不安を抱えるアイルランドやポルトガルに飛び火した。最もインパクトがあったのはギリシャのユーロ離脱への懸念と、それによるユーロ崩壊の危機であった。今回については、アルゼンチンの問題が国際的な危機的状況を導くとは考えづらいが、新興国に対する警戒心が強まることは確かであろう。

ユーロ危機後の世界を見る上では、いくつかの注意点がある。2013年はユーロ危機の後退とともに、欧米の景気回復等に助けられ米国株式市場はダウ平均が過去最高値を更新し続け、年末に最高値を更新するなど、バブル崩壊前の日本の株式市場を連想させるような動きとなっていた。その反動がいつ起きてもおかしくはなかった。さらにユーロ危機の後退は円安を促したが、これについても米国政府からの円安への牽制も出るなか、円安の動きが抑制される可能性がある。アベノミクスと日銀の異次元緩和が円安を導いたとして、日銀への追加緩和期待を抱くのは勝手であるが、それで円高の動きを抑えられたとしても一時的と思われる。為替市場の流れを変えられるかどうかは、世界的なリスクの行方次第になると考えられるためである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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