金融政策で非常時対応が求められるのは有事の際
6月11日の金融政策決定会合では、全員一致で現状維持となった。金融政策に特に変更はなく、特に執行部に指示等もなかった。
事前に「日銀は長期金利の乱高下を抑制するため、現在1年以下に限定されている資金供給オペの期間を2年以上に延長することを議論する」と新聞などで報じられ、市場参加者もその気になっていた。ところが日銀のゼロ回答により、梯子を外され外為市場では円高が進み、12日の東京株式市場は下落し日経平均は一時13000円を割り込んだ。
日本版LTROの開始かとも期待があったが、資金供給オペの期間延長については、いろいろと問題があった。元々は日銀と市場参加者の対話の場で、市場参加者から出された要望であったようである。
黒田日銀総裁は11日の会見で、「(長期金利の)変動は収まってきており、現時点では必要ないとの結論に達した」とコメントした。ただし、「議論があったのは事実だ」とも認めている。
長期金利の変動は5月23日に1%をつけてからは、むしろ低下し0.8%台で推移するなど、いまのところ1%台に再び乗せるような気配はなく、11日にそれを決定する必要性はなかった。しかも、黒田総裁の言うところの「戦力の逐次投入はしない」との考え方にも矛盾しかねない。
それでは、金融政策に必要なのは一度に戦力を集中投入する大胆で異次元の政策なのか、それとも状況に合わせて微調整を繰り返す政策なのか。必要なときには大胆な政策は求められると思うが、それが本当に必要とされるのは有事の際であろう。
今年4月5日の異次元緩和が異次元だったのは、それが有事に行われたものではなかったことであり、普通に何の支障もなく売買されていた日本の国債市場にむしろ波風をたててしまったことで、長期金利は低下せずに上昇した。これによる長期金利上昇を抑制する手段しては、異次元緩和をすぐにでも止めることしかない。あくまでこれは長期金利の乱高下を防ぐためにはという意味であるが、余計な対策を講じると、わけのわからぬ継ぎ接ぎだらけの政策にもなりかねない。
今回、日銀が何もしなかったことは、むしろ良かったと思う。円高・株安がこの日銀のゼロ回答のせいとされているが、日銀の対応を確認してヘッジファンドなどが仕掛けてきたことも考えられる。そのヘッジファンドの仕掛けがうまくいったとすれば、中銀の金融緩和策への依存度を強めすぎている市場に問題がある。
この中銀への依存度は、そろそろ考え直す必要がある。たしかに欧州のリスクは完全に消えたわけではない。ギリシャでは財政再建のために公共放送局を閉鎖したとのニュースもあった。ただ、昨年に比べればギリシャやイタリアの長期金利の居所を見てもわかるが、リスクは大きく後退している。
日銀の異次元緩和はさておいて、欧米の中央銀行が行ってきた非伝統的手段と呼ばれる超緩和策は、リーマン・ショックや欧州の信用不安による金融経済への影響を意識したものであり、そのリスクが後退している以上、超緩和策から通常の緩和策に移行してもおかしくはない。
足下経済がなかなかそれを許さないのかもしれないが、非常時の政策を常時に行い続けると、いずれ副作用が生じる懸念もある。異次元の世界に入り込んだ日銀はさておき、FRBの出口模索も当然といえば当然である。ECBも追加緩和については、利下げという通常の政策で対処してくると思われ、こちらもいずれ非常時の対応からは徐々に脱してくることが予想される。