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日銀の異次元緩和で混乱の度が増した国債市場

久保田博幸金融アナリスト

4月4日の日銀の量的・質的金融緩和の導入以降、債券相場は乱高下し、波乱含みの展開となっている。日銀の異次元緩和が今回の債券市場の混乱を招いたことは間違いない。どのような状況となっていたのか、あらためて振り返ってみたい。

4日の債券相場は日銀の量的・質的金融緩和の導入を受けて上昇してはいたが、高値をつけたのは引け後である(決定そのものは昼過ぎ)。10年債利回りが0.425%まで低下して2003年6月の長期金利の世界最低記録を更新した。その際にイブニング・セッションでつけた146円44銭が現在のところ、長期国債先物の過去最高値として記録されている。

5日に10年債利回りはさらに低下し、0.4%を割り込み一時0.315%に低下した。超長期債も20年債、30年債とも1%割れに。20年債利回りは0.845%に低下、30年債利回りは0.925%に低下した。これがそれぞれの最低利回りとして記録されている。ところが、中期ゾーンには銀行からとみられる戻り売りも入ったことで、債券先物は146円41銭から下落基調となり、高値警戒も手伝ってか下げ足を速めた結果、債券先物は2度のサーキット・ブレーカーが発動。143円10銭まで急落した。0.315%まで利回りが低下していた10年債は0.620%に上昇。ただし、押し目買いも入り債券先物は145円台に戻すなど板が薄い中、乱高下する展開となった。

8日の債券先物は買いが先行し、前日比89銭高の144円91銭で寄り付いた。日銀は4日に決定したあらたな国債買入を本日から実施、その結果も好感されてか、債券先物の後場に入り一時145円02銭と5日の清算値から1円高となったことで、本日もサーキット・ブレーカー制度が発動した。その後145円25銭まで買われたが、戻り売りも入り144円57銭まで急落するなど荒れた動きとなった。この日の現物債は中長期債はしっかりながら、超長期はさらに下落し20年債利回りは1.2%台、30年債利回りは1.3%台に上昇した。

9日には債券先物や10年債あたりはしっかりとなっていたが、2年債利回りが0.1%台に乗せ、超長期債は20年債が1.300%に、30年債が1.385%まで利回りが上昇した。

10日の債券市場では、4年から5年債ゾーンにそこそこまとまった売りが持ち込まれたとみられ、債券先物は引けにかけて下げ足早め、前日比51銭安の144円16銭で引けた。10年債利回りも一時0.580%に上昇。中期債は2年債利回りが0.125%に上昇し、5年債利回りも0.245%と5日の急落時につけた利回りを抜いてきた(15時頃の状況)。

引けあとに債券相場はさらに下げ足を速め、債券先物はイブニング・セッションでサーキット・ブレーカーが発動された。つまり9日の先物の清算値から1円安となり、取引再開後143円37銭まで下落した。5年債は引け後に0.305%をつけ、10年債利回りも0.635%まで上昇したのである。

ここで簡単に整理してみると、

2年債 4日0.060% 10日0.130% (0.070%)

5年債 4日0.125% 10日0.305% (0.180%)

10年債 5日0.315% 10日0.635%(0.320%)

20年債 5日0.845% 10日1.365%(0.520%)

30年債 5日0.925% 10日1.450%(0.525%)

利回りの変動幅からみて、超長期債のほうが大きいものの、2年債、5年債、10年債はそれぞれ最低利回りから2倍を超える上昇となっている。これは1年以下の短期債も同様となっており、超過準備の付利0.1%を超えてきている。

なぜ日銀は国債発行額の7割も購入するのに、国債は売られたのか。これは市場参加者以外の人には皆目わからないかもしれないが、市場参加者も理解しづらい面もあったのも事実である。ただし、日銀の黒田総裁は10日の会見で、「こうした市場の動きはある程度、あり得る動きだと思っている」と語ったそうで、予見していたそうである。本当だろうか。たしか異次元緩和はイールドカーブを押しつぶすのがひとつの目的ではなかったか。

今回の債券相場の乱高下についてはいくつかの要因が重なっている。ひとつは歴史的水準にまで利回り低下したことや、期初というタイミングなど含めて、中期ゾーン主体に銀行あたりからとみられる利益確定売りが入ったと思われること。さらに短期債含めて、超過準備の付利が温存されたことで、引き下げもしくは撤廃を意識されて利回りが低下していた分が戻されたこと。また、これまでは基金による買入などは中短期債主体に行われ、市場機能が低下していたところ、買入の主体がもう少し長めの期間のものに移った結果、中短期債の価格発見機能が息を吹き返して上昇した面もあったとみられる。10日の中期債の売りについては、リスク管理手法の影響なども指摘されていた。

これに対して超長期債の利回り上昇は、日銀がその超長期債も購入するにもかかわらず、大きく売られたのは理解に苦しむかもしれない。下落要因としてあげられるのは20年債、30年債の利回りが1%割れとなっていたことがある。2003年6月と同様にこの水準では逆ざやとなるなど、生保などが購入を手控えることが予想された面もあった。さらに日銀が中長期債に比較して流動性の薄い超長期債に入り込むことで、市場に流動する国債が減少してしまう懸念も出てきた。以前の中短期債のごとく市場機能(価格発見機能)の低下への懸念とともに、売り買いがしづらくなるという流動性リスクが意識されたことが考えられる。つまり超長期債の利回りには、流動性リスクプレミアムがオンされているとの見方もできる。もちろん価格変動リスクも意識されたと思われる。

今回の日銀の大胆な政策があまり時間を置かずに、とにかく大胆さとスピードを意識しすぎた分、必要な調整がなされていなかったことも影響していると思われる。特に気になるのが市場との対話である。これだけ大胆なことをする以上、日銀の相手側となる金融機関との議論等がなされていた気配はない。国債発行額の7割も日銀が買うためには、当たり前だが売り手も必要となり、また財務省の国債管理政策にも係わることであるが、どうやらその準備は前もって進んでいたわけではなさそうである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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