日銀の異次元の緩和策、量的・質的金融緩和
日銀は4月3日、4日の金融政策決定会合で、「量的・質的金融緩和」の導入を決めた。コアCPIの2%という物価目標に対しては2年程度の期間を念頭に置いて、早期に実現するため、マネタリーベース(現金通貨と日銀の当座預金残高)および長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍程度とし、長期国債の平均残存年数を現行の2倍以上にするなど、量・質ともに次元の違う金融緩和を行う。
金融市場調節の操作目標も現行の無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベースに変更する。このため金融市場調節方針は「マネタリーベースが、年間60~70兆円に相当するベースで増加するよう金融市場調節を行う」に変更された。年間60~70兆円というのはマネタリーベースの増加ベースとなり、2012年度末のマネタリーベースの実績138兆円規模が、2013年度末が200兆円、2014年度末が270兆円となる見込み。
国債のイールドカーブ全体の低下を促すことを目的に、長期国債の保有残高が年間50兆円に相当するペースで増加するよう買入を行う。長期国債の買入対象を40年債を含む全ゾーンとし、買入の平均残存年数を現状の3年弱から国債発行残高の平均並みの7年程度に延長する。この結果、毎月の長期国債のグロスの買入額は7.5兆円規模(これまでは3.8兆円程度、4月の買入予定額は6.2兆円)になる。2013年度の長期国債のカレンダーベースの発行予定額は126.6兆円となっており(年間発行額156.6兆円から短国の30兆円を差し引いたもの)、7.5兆円の12か月で88.7兆円をグロスで日銀が購入するとなれば、毎月の発行額の70%を買い入れることになる。
新方式の国債買い入れは新発債も対象となるそうである。これまでの輪番オペは財政ファイナンスと意識されないために、発行年限別の直近発行2銘柄を除いていたが、それを行うと流通玉が不足しかねず、新方式ではその制限も外す。2002年1月に日銀は国債買い入れオペ(輪番オペ)の対象を、それまでの発行後1年以内のもの(1年ルール)から、発行年限別の直近発行2銘柄を除くに拡大した。「新たなルールとして、発行年限別の直近発行2銘柄を除くものにしたいと考えている」(和田企画参事官)とあるが、なぜ直近発行2銘柄を除くにしたいのかという理由としては、「取引が活発でペンチマークを形成している発行直後の銘柄を、対象銘柄から除けば、ベンチマーク銘柄について市場での価格形成を歪める惧れはないと考えられる」としている。つまり、なるべく対象銘柄を拡大したいが、カレント物とも呼ばれる直近発行銘柄への影響を考慮するとともに、直近発行2銘柄を除くということで国債引受との見方も排除することも意識されたものと思われた。ただし、基金による国債買入ではこの制限はなかったことで、2年債の新発債は買入可能となっていた。今回の措置により、今後は5年債、10年債、さらに超長期債の新発債の日銀による購入が可能となる。
さらに質的緩和強化の意味合いから、ETF及びJ-REITの保有残高がそれぞれ年間1兆円、年間300億円に相当するベースで増加するよう買入を行う。
「量的・質的緩和」は2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に維持するために必要な時点まで継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。これに対しては木内委員が文章の変更を求める意見が出されていた。このほかについては全員一致。準備期間が短かった割には、審議委員への説得も密かに進められていたとみられる。
資産買入等の基金は廃止され、金融調節上の必要から行う国債買入は既存の残高を含め、国債買入に吸収する。つまり基金と輪番の統合となる。この国債買入は金融政策目的で行うものであり、財政ファイナンスではない、と公表文に明記。銀行券ルールは一時停止。特にそれに変わるルールについての言及はない。
巨額な国債買入と大規模なマネタリーベースの供給を円滑に行うために、市場参加者との間で、金融市場調節や市場取引全般に関してこれまで以上に密接な意見交換の場を設ける。さしあたり、市場の国債の流動性に支障が生じないように、国債補完供給制度の要件を緩和する。早速、4日の夜にエコノミストが日銀に集められたようである。
被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーションおよび被災地企業等にかかる担保要件の緩和措置を1年延長する。
今回の政策により、国債への需給には大きな影響を与えようが、国債の買い手として日銀の存在が大きくなる。これが国債市場にはひとつの不安要因にもなりかねない。さらにある程度イールドカーブが潰れてしまうと、今回は超過準備の付利撤廃はなかったことで、中期から長期ゾーンについては利回りの低下にも限界が出てくる。
いずれ前回の量的緩和時代に短期金融市場が機能不全に陥ったように、中期ゾーンを主体に債券市場も同様の状態となる懸念が生じよう。超長期債については、利回りの低下余地がある分、それでなくても中長期債に比べて流動性が低いこともあり、日銀の買入による需給逼迫も相まって、ボラタイルな動きがさらに加速される懸念がある。カーブが潰れるとともに、7年債に連動する長期国債先物はヘッジ手段としては使いづらくなる懸念があり、日本証券取引所が再開しようとしている超長期国債先物への期待も強まるかもしれない。
結果として、すでに時代遅れの理論ともされたマネタリーベースと物価との関係を試す、壮大な実験が日本で行われようとしている。民間銀行にとり日銀に国債を売った資金は、現金の伸びが予想されていないなか、ある程度日銀の当座預金口座に留め置かないと、マネタリーベースを倍に増やすことなど難しい。日銀の当座預金に巨額資金を積み上げることで、どのような経路を通じて、CPIが前年比2%になるのであろうか。始まってしまった以上は、この壮大な実験がうまく行くことを祈るほかない。失敗したら副総裁の辞任どころでは済まなくなる。