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日銀による国債買入はどうなるのか

久保田博幸金融アナリスト

注目の金融政策決定会合、本日二日目の開催となり結果が発表される。黒田総裁は2日にも国会に呼ばれ、ブラックアウト期間中ながら金融政策に関わる発言をしていた。

ちなみにブラックアウト・ルールとは、「各金融政策決定会合の2営業日前(会合が2営業日以上にわたる場合には会合開始日の2営業日前)から会合終了当日の総裁記者会見終了時刻までの期間は、国会において発言する場合等を除き、金融政策及び金融経済情勢に関し、外部に対して発言しない。」(日銀のサイトより)というルールであり、国会では発言は認められている(とは言っても、あまりしゃべりすぎるとサプライズ効果はなくなってしまう懸念はあるが)。

この黒田発言から、新体制となった日銀のあらたな政策について、特に国債買入がどうなるかについて整理してみたい。

日銀は資金供給策の一環として市場から国債を買い入れるオペレーションを行っている。昔は輪番制だったので「輪番オペ」と呼ばれるが、いまは輪番制ではない。具体的には毎月1.8兆円、年間で21.6兆円の買入を行っている。買い入れるにあたり年限別に金額が定められており、現在は「残存1年以下」が年間で7兆4400億円、「1年超10年以下」が12兆円、「10年超30年以下」が1兆2000億円、変動利付債が7200億円、物価連動債が2400億円となっている。この買入れによる国債の残高は日銀券残高を超えないとする、銀行券ルールが自主的に設けられている。

さらに日銀は2010年10月に導入した包括緩和政策により、物価安定のもとでの持続的成長を促す目的で、国債を中心とした資産買入を別枠で設けた基金で行っている。これによる国債の買入は残存1年から3年の国債に限られるが、銀行券ルールの適用外である。基金による国債の買入は、年末の残高を目標とするものとなっているが、長期国債(この場合の長期国債とは残存1年を越える期間の国債のこと)については2013年12月末に44兆円規模が目標となっている。国債には償還があるため、それを加味して最終的な残高を積み上げる必要があり、それを考慮すると現在は毎月2兆円規模の国債を買い入れている。

日銀は今年1月に2014年からは基金による買入について、毎月の買入額を示すことにし、その期限は設けず無期限緩和とすることを決定した。これは米国のFRBによる買入が無期限としてアピールしていたことを取り入れたものと思われる。その毎月の国債の買入額は2兆円としている。

基金は結果として解体されることになるとみられるが、その基金で買い入れている国債は輪番に統合され、その結果、日銀は国債買入をひとつの方式にし、輪番での年限別の買入方式は残すと予想される。残存1年以下、1年超10年以下、10年超30年以下との区分けが、たぶん残ると思われるが、このうちの「1年超10年以下」の部分が基金の分の組み入れで大きく膨らむ。

日銀の国債買入のターゲットが毎月の購入額の数値となれば、現行の2方式でのトータル1.8兆円プラス2兆円の3.8兆円程度から、それを5兆円程度に引き上げることが予想される。引き上げ分の増額対象は、5年債や10年債との黒田総裁の発言もあったため、1年超10年以下の部分となることが予想される。10年超30年以下の部分への期待もあるが、発行額や残存額、さらに最近の超長期債のボラタイルな相場を見ても、ここを増やすことは当面は控えるのではないかと予想される。

ただし、4日のNHKニュースによると「大がかりな枠組みの変更が実施に移されるまでの間、今ある金融緩和のための基金の規模を拡大する案も検討対象」とあった。技術的な問題を含めて、輪番と基金の国債買入統合はすぐには行えない可能性もある。今回はその方針を打ち出し、実際にそれを施行するまで時間を置く可能性はありうる。

基金では国債、CP、社債、ETF、J-REITなど多様な金融資産の買入とともに固定金利方式・共通担保資金供給オペを行っている。基金の解体により、国庫短期証券の買入分、固定金利方式・共通担保資金供給オペレーションの取り扱いをどうするのかとの問題もあるが、このあたりも通常のオペレーションとして組み入れられることになると予想される。

日本の国債買入が統合されることで、銀行券ルールが意味をなさなくなる。このために別途、ルールを設けることも予想される。これがどのようなルールになるのかは定かではないが、個人的には国債残高に占める日銀のシェアを数値目標とするなどの方式もありうるかとみている。いずれにしても財政ファイナンスではないと明確化させるためのルールは作らざるを得ないのではなかろうか。

新体制となった日銀の国債の買入統合等によりあらたな政策を行うことになるが、その目標が何になるのかも注目される。すでに量的緩和政策への回帰とも報じられ、特に岩田副総裁がマネタリーベース(現金通貨プラス日銀当座預金)を重視していることで、日銀の当座預金残高が目標とされる可能性がある。そうなれば超過準備への付利撤廃はしづらくなる。付利がなければ民間銀行は当座預金に現金を残す大きなインセンティブがなくなるためである。超過準備の部分は強制ではない。このため現在の付利はそのまま残される可能性が高い。

日銀の当座預金残高は3月末で58兆円規模となっているが、すでに現在の政策でも今年末には80~90兆円程度に当座預金残高は積み上がることが想定されている。その金額をひとつの目標値に据えて、その金額を100兆円程度かそれ以上に引き上げることも予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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