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日銀による国債の買入はどう変化するのか

久保田博幸金融アナリスト

日銀が市場から国債を買い入れている方式は2通りある。ひとつは債券市場参加者がよく使う用語の「輪番方式」による国債買入である。これは昔、日銀の国債買入はいくつかのグループに分けての輪番方式にしていたことで、当時から国債の買入は「輪番オペ」と呼ばれており、輪番方式ではなくなったあとも、言葉だけが残ったものである。いわばテレビのチャンネルを「押す」のではなく「回す」と言っているようなものであろうか。

戦後初めて国債が発行される際にすでに日銀による国債の買入が議論されていた。当時の佐々木日銀総裁は日銀が物価・国際収支の動向等を配慮して、適当と認められる額の買入れは主導的に実行することができるとしていた。

日銀が戦後、国債の買い入れをスタートさせたのは1967年2月で、このとき日銀の買入債券の対象に発行後1年経過の国債を追加したのである。発行後1年以内の国債を除外したのは、国債の市中消化による原則からいって適当でないという考え方が基になっていた。2002年1月には国債買い入れオペ対象を発行年限別の直近発行2銘柄を除くに拡大した。

2001年3月19日の日銀金融政策決定会合の際に、行内ルールとして日銀の保有する国債残高を銀行券発行残高の範囲内とする運営ルール、いわゆる銀行券(日銀券)ルールが設けられた。

このときの決定会合議事録によると当時の速水総裁は次のように発言していた。

「長期国債買切りオペの増額は、やりようによっては大きな副作用を伴うものである。今回の措置が国債の買い支えとか財政ファイナンスを目的とするものでないことは当然であるが、そうした誤解をされないためにも明確な歯止めを用意しておくことが不可欠だと思う。具体的には長期国債オペで成長通貨を供給するとこれまで私共が言ってきた考え方を堅持する意味で、今度は銀行券のフローではなく発行残高を上限として必要に応じ国債の買切りオペを行うという考え方が適当ではないかと思う」

現実にはこの日銀券ルールは形骸化していたとも言える。そもそもこの日銀券ルールの適用は長期国債のみであり、国庫短期証券は別としていた。さらに基金によって買い入れた長期国債を加えると、長期国債だけでもすでに銀行券発行残高は上回っている状態にある(詳しい数字は日銀サイトの営業毎旬報告で確認できる)。

銀行券ルールという縛りがある日銀による国債買入は毎月1.8兆円ずつ行われ、年間で21.6兆円の買入が行われている。これに対して別枠というか別腹で、基金による国債買入も行っている。

輪番オペの方はあくまで毎月1.8兆円ずつの国債買入を行うというように購入金額が定められていたのに対して、基金の方は買い入れる金額ではなく、残高が定められていた。輪番の方は償還されればその分だけ残高は減少するため、日銀の国債残高が毎年21.6兆円積み上がるわけではない。それに対して基金の部分は、償還される分も買い付けを行わないと目標残高には到達しないことになる。

ただし、今年1月の決定会合では基金による国債買入については、「期限を定めない資産買入れ方式」を決定、2014年(年度ではなく通年ベース)からは毎月長期国債を2兆円程度、国庫短期証券を10兆円程度することを決定した。これにより基金の残高は2014年中に10兆円程度の増加となり(国債には償還があり、基金による買入対象国債は中期債のため)、それ以降、残高が維持される格好になる。

3月20日からスタートするであろう黒田日銀は、4月の会合を待たずに臨時会合を開き追加の緩和策を決定するとの観測も出ている。福井元総裁同様にスピード感を含めてのアナウンスメント効果を意識すればその可能性もある。次元の異なる大胆な追加緩和は国債買入増額が主体となると予想され、そうなれば上記の日銀の国債買入のスタイルが大きく変化することが予想される。

基金により買い入れる国債の年限を長期化するとなれば、輪番オペと基金オペの融合も視野に入るし、市場参加者にとってもその方がやりやすい。しかし、その際には形骸化しているとはいえ銀行券ルールをどうするのか。もし2014年初からスタート予定の「期限を定めない資産買入れ方式」を前倒しで行うとすれば、毎月の買入はどの程度となるのか。対象となる国債の年限はどうなるのか。国債需給にも大きく影響するだけに、この動向に注意する必要もあろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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