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債券バブル到来か

久保田博幸金融アナリスト

いまさら債券バブル到来かと言っても、そもそもずっとバブルは膨らみ通しではないかとか、そもそもバブルなどではないのではないか、とのご指摘を受けるかもしれない。しかし、ここにきての債券の動き、なかでも中短期債の動きはまさにバブルを彷彿させるようなものになっている。

バブルというのは弾けないとバブルとは言わない。その意味で前回のバブルは2003年のVARショック前の動きであったかと思う。

2003年5月のりそな銀行に対する資本注入によって、大手銀行は潰さないといった意識が強まり、その結果、株式市場では銀行株などが買われ、海外投資家の買いなどにより、日経平均株価は2003年4月の7607.88円がバブル崩壊後の安値となり底打ちした。米国や中国などの経済成長などを背景に、日本の景気も徐々に回復し始め、その後上昇基調を強めたの。

6月までは債券相場は1日あたりの値幅も限られながらも、じりじりと高値を更新し続け11日に30年債が0.960%、20年債0.745%、そして10年債0.430%とそれぞれ過去最低利回りを記録。この相場上昇過程において、目立ったのがメガバンクの一角や地銀を含めた銀行主体の債券買いであった。銀行などがポジションのリスク管理に使っているバリュー・アット・リスク(VAR)の仕組み上、変動値幅が少ないことでそのリスク許容度がかなり広がりをみせていた。株価の低迷にともなって債券での収益拡大の狙いもあり、必要以上にポジションを積み上げ、異常なほどの超低金利を演出した。

これもいわゆる債券バブルとなり、6月17日日経平均株価が9000円台を回復し、この日実施された20年国債の利率が1%割れのクーポンとなり、大手投資家などが超長期国債の購入を手控えたことをきっかけにして、債券相場が急落したのである。

この債券相場の急落の背景としては、株価の上昇とそれを裏付けるような好調な経済指標が出てきたことで、景況感の変化によるものも当然大きかった。しかし、下げを加速させたのもVARであった。債券急落に伴い変動幅が今度は異常に大きくなり、銀行のリスク許容度が急速に低下。必要以上に売りを出さざるを得なくなったことで、下げが加速されたのである。

今回の債券バブルに見える動きは、中短期債主体のものである。日銀の積極的な金融緩和により、基金による中短期の国債の買入があり、国債を日銀に売却した資金もまた結果として債券に向かうことになる。1月31日の2年国債の入札では、かなりの金額の不明玉があり、大手銀行が直接落としたのではないかと観測された。

安倍政権による三本の矢には大胆な金融政策も含まれており、日銀は2%の物価目標を導入した。これも円安の加速要因となり、円安を背景に東京株式市場も急ピッチで上昇した。将来のインフレへの懸念とともに、積極的な財政政策にともなう国債の増発もあり、超長期債には売り圧力が掛かった。その資金もまた中短期債に向かい、メガバンク保有の国債のデュレーションも短期化し、それも2年債などの利回り低下を促した面もあろう。

さらに急激な株高による年金のポートフォリオでは株の比率が自然に高まってしまうため、その調整も必要になる。つまりその分債券運用を増やさなくてはならず、その資金も長期債や超長期債は避けて、期間リスクの低い中短期債に向かっていると言われる。

このような状況により、ここにきて中短期債の利回り低下が著しい。結果としてみれば、日銀の超過準備の付利撤廃を意識されるような水準となっているが、付利引き下げ観測等で買われたわけではなく、まさに需要の強さを背景にこの水準にまで利回りが低下してしまったと思われる。

これが果たしてバブルかどうかは弾けてみないとわからないが、異常な状況に見えることも確かである。債券バブルは過去をみると、10年債主体に買われた反動ということが多く、中短期債ではバブルとはならないかもしれない。中短期債では反動といってもたいしたことはないかもしれないが、このような極端な利回り低下は、いずれ反動が起きる可能性を秘めていることにも注意が必要であろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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