大阪府立労働センター「エル・おおさか」(大阪市中央区)で開催された「表現の不自由展かんさい」は、右翼団体の抗議活動にさらされながら、7月16日~18日の日程を完了し、閉幕した。3日間の定員は1300人。毎日午前9時からの整理券配布には長蛇の列ができ、最終日には午前8時過ぎに定員300人を超える盛況ぶりだった。

 会場の「エル・おおさか」の指定管理者は展示会の開幕目前に、「管理上、支障が出る」と利用承認を取り消したため、展示会の実行委員会側は「取り消し処分」の執行停止を大阪地裁に申し立てた。大阪地裁、大阪高裁、最高裁と裁判所の審理が進む中、実行委員会は「明日はどうなるか分からない」という状態で展示会の準備を行い、開幕日に最高裁で施設利用を認める司法判断が確定する劇的展開となった。

会場利用の司法判断は異例の速さ

「表現の不自由展かんさい」の会場「エル・おおさか」前で、抗議活動する右翼団体の街宣車に注意する大阪府警の警察官=2021年7月16日、筆者撮影
「表現の不自由展かんさい」の会場「エル・おおさか」前で、抗議活動する右翼団体の街宣車に注意する大阪府警の警察官=2021年7月16日、筆者撮影

 2015年に東京で始まった「表現の不自由展」は、各地の展覧会等で公開中止や展示拒否にあった作品を集め、憲法21条の「表現の自由」を問うのが狙い。従軍慰安婦を表す少女像や、昭和天皇の写真が燃える動画作品があり、開催の度に物議を醸してきた。今年は6~7月、東京展、名古屋展、大阪展と3カ所の巡回展が計画されたが、6月25日からの東京展は会場の民間ギャラリーが抗議の街宣活動に耐えられず、開催を断念。7月6日から1週間の予定で名古屋市立のギャラリーで始まった名古屋展は、不審な郵便物が届けられたという理由で3日目に中断した。

 大阪展が最後までやり切れたのは、裁判所がスピード審理で決定を出したことが大きい。「表現の不自由展」に施設を利用させまいとする「エル・おおさか」側と、「憲法で保障された表現の自由を制限するな」と主張する実行委員会側との攻防で、裁判所は実行委員会側に軍配を上げた。

 「エル・おおさか」の指定管理者は今年3月に「表現の不自由展かんさい」(大阪展)の開催を承認していたが、6月25日、安全管理上の問題から利用承認を取り消し。大阪展の実行委員会側は6月30日、大阪地裁に「取り消し処分」の執行停止を申し立てた。大阪地裁は7月9日、「警察の適切な警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情があるとは言えない」と、申し立てを認める決定をした。「エル・おおさか」側は7月12日、この決定を不服として大阪高裁に即時抗告したが、大阪高裁は7月15日、即時抗告を棄却。「エル・おおさか」側は同日付で特別抗告し、翌日の7月16日、最高裁は特別抗告を棄却した。

 東京展を企画し、名古屋展と大阪展は実行委員会に協力する立場で展示会場に足を運んだ岡本有佳さんは、「裁判所の決定のせいなのか、大阪府警の会場警備は名古屋展の愛知県警とは本気度が違うと感じた」と話す。

大阪地裁・大阪高裁の裁判長の人物像

「表現の不自由展かんさい」が3日間の日程を無事に終了し、ペットボトルのドリンクで乾杯するボランティアスタッフら=2021年7月18日、筆者撮影
「表現の不自由展かんさい」が3日間の日程を無事に終了し、ペットボトルのドリンクで乾杯するボランティアスタッフら=2021年7月18日、筆者撮影

 大阪展の会場には、法的判断が必要な事態が発生した場合に備え、多くの弁護士が待機した。その弁護士らが口々に言うのは、今回の司法判断をした2人の裁判長についてだ。

 大阪地裁の森鍵一裁判長は、関西電力大飯原発3、4号機の設置許可取り消しを求めた訴訟や、生活保護費の減額取り消しを求めた訴訟を指揮し、原発訴訟は昨年12月、生活保護訴訟は今年2月、いずれも原告勝訴の判決を言い渡している。行政に忖度しない「法の番人」として信頼が厚い人物という。

 大阪高裁の本多久美子裁判長は、弁護士任官の裁判官だ。奈良弁護士会長も務め、2007年から裁判官に。弁護士の間では「訴訟指揮が丁寧で的確。弁護士時代に依頼者に寄り添う経験を積んできたことが分かる」との評判だ。

 展示会実行委員会側の代理人弁護士の1人は「大阪地裁も大阪高裁も表現の自由を守るという結論を極めて迅速に出してくれた。この申し立て事件が、森鍵裁判長と本多裁判長に当たったのは、民主主義の神様が差配をしたのではないかとさえ思う」と評する。

 憲法順守を明確にした司法判断に対し、展示会開催に尽力した弁護士らが疑問を呈するのは、大阪府のトップである吉村洋文・府知事の対応だ。「エル・おおさか」が府立施設であることから、吉村知事は度々、マスコミから見解を問われ、その都度「施設利用承認の取り消しは当然」「非常に危険なことが起きる可能性だってある」「明らかに差し迫った危険がある」と、展示会を開催すべきでないとの意向を表明してきた。

 「エル・おおさか」には7月13日~16日、「開催するなら実力阻止に向かう」という脅迫文や、水を袋に入れて「サリン」と脅す郵便物が届くなどした。名古屋展のように開催に影響はしなかったが、展示会のボランティアスタッフを務めた弁護士は「吉村知事の発言が煽ったのも同然だ」と指摘する。「知事が危険だ危険だと言うなら、そういう状況にしてやろうと考える人が出てきても不思議ではない。知事としては『暴力的妨害には毅然と対応する』と言うべきだった。それでこそ、脅迫や悪質ないたずらの抑止になるはずだ」

右翼活動家は「危険な存在」なのか?

日の丸を掲げ、「表現の不自由展かんさい」の会場前で開催に抗議する右翼活動家=2021年7月16日、筆者撮影
日の丸を掲げ、「表現の不自由展かんさい」の会場前で開催に抗議する右翼活動家=2021年7月16日、筆者撮影

 会場の「エル・おおさか」周辺では、右翼団体の街宣車が周回するほか、土佐堀通り(大阪府道168号)を挟んだ向かい側の歩道で、日の丸を掲げたグループが抗議活動を展開。展示会開幕日の7月16日、背中に日の丸と「護国尊皇」の文字を描いたシャツを着た男性が筆者の取材に応じた。

――「エル・おおさか」の指定管理者や吉村洋文・大阪府知事は、「何が起きるか分からない」「保育施設の子供たちをリスクにさらす」などと危険性を強調する。あなた方は暴力も辞さない方針なのか?

男性 安全か危険かという基準で施設の利用を許可したり取り消したりするのは論点ずらしだ。右翼活動家は何をするか分からない危険な存在だという印象操作がある。我々が展示会に抗議しているのは、一般の規範、良識を逸脱しているからだ。中でも、昭和天皇の写真を燃やし、踏みつける動画作品は看過できない。皇国民として天皇は「親」であり敬愛の対象。日本と外交であつれきのある国に対しても、その国のトップを侮辱するような行為を見せつけたりしない。日本人はそういう倫理観と魂を持っている。憲法で「表現の自由」が保障されているからこそ、より一層、倫理観を持つことが問われるのであって、思いつくまま何でも表現していいのではない。この展示会のような表現が世に広まるのは、国民の良識や倫理観に影響を及ぼすのではないかと危惧する。

――「施設を破壊する」などの脅迫文が、展示会場の「エル・おおさか」に届いているが、こうした行為をどう思うか?

男性 それは抗議ではなくテロ、犯罪だ。右翼活動家は絶対にそういうことはしない。卑劣な脅しは警察に取り締まってほしいし、いくら調べても我々にはたどりつかない。さきほど、展示会場に行って作品を見てきた。なぜこのような作品を公共の場に出したいと思うのか、背景も含めて関心がある。作品を破壊したり来場者に危害を加えたりしないと説明し、展示会場に入場が許可された。展示会を力づくでつぶすようなやり方はしない。

――右翼団体による展示会への抗議活動は「ヘイトスピーチだ」という批判があるが?

男性 我々がいかつい車に乗り、いかつい恰好をして活動しているのは、抗議の対象、日本人の魂を汚すものに「負けたらアカン」と思っているから。外国人排斥のヘイトスピーチとは全く違う。自分もアメリカに在住した経験があり、アメリカの地で日本のことを思った。在日コリアンの友人もいるが、在日の人々に祖国を思う心があるのは当然だと理解している。右翼活動家は排外主義者ではない。

 様々な思いが激しくぶつかり合った「表現の不自由展かんさい」。司法を巻き込み、警察の徹底警備と多くの市民ボランティアの手によって、無事に日程を貫徹した。右翼団体は閉幕まで抗議活動をやり切った。展示場の作品だけでなく、展示会の開催そのものが「表現の自由」の価値を訴えた熱い3日間だった。