NYMEX原油先物相場は、1バレル=100ドルの節目を大きく上抜き、2014年6月以来となる7年9カ月ぶりの高値を更新した。2020年4月には、パンデミックの混乱の中で歴史上初のマイナス価格を記録した原油相場が、それから2年を待たずに100ドルを超えたことで、ガソリン価格を筆頭にエネルギーコストの負担感は著しく強まり易い環境になっている。

今年の原油相場高騰の直接的なきっかけは、ウクライナ危機だ。ロシアは2月24日に隣国ウクライナに対して軍事侵攻を開始し、それを受けて国際社会がロシアに対する経済制裁に踏み切ったことで、ロシア産エネルギーの供給混乱が強く警戒されているためだ。ウクライナそのものは主要産油国ではないが、世界3位の産油国であるロシアが関係していることが、原油価格の高騰を促している訳だ。

一般的に供給サイドの要因に基づく原油高は、構造的なものになりづらいため、原油価格に対する影響は短期的なものに留まり易い。例えば、産油国の石油施設が何らかの攻撃を受けて供給が止まっても、施設の復旧が進めば供給も回復し、原油価格は沈静化することになる。その意味では、今回もウクライナで停戦合意が実現し、各国が対ロシア制裁を緩和・解除すれば、原油相場も沈静化する可能性はある。

しかし、足元で原油相場がパニック的とも言える高騰を続けているのは、ロシア産原油が半永久的に国際原油市場から排除されるリスクまでも織り込み始めているためだ。米欧諸国は2月26日、ロシアの大手銀行を国際決済ネットワークSWIFTから排除することで合意した。また、28日には米政府がロシアの中央銀行、財務省などとの取引を禁止する新たな制裁も発表し、即日発効した。これは、ロシアとの貿易を事実上断絶することを意味し、少なくとも欧米諸国はロシア抜きの新たな世界秩序の構築に向けて動き出した可能性を示唆している。

BP、シェル、エクソン・モービルといった大手石油会社が、ロシアで展開する事業の一時停止に留まらず、撤退に踏み切る方針を固めたことからも、構造変化が起きていることが確認できよう。現実問題として、直ちにロシア産エネルギーに依存しない世界を構築することは不可能に近いが、それでも今後はそうした世界を目指す方向に向かう可能性が高まっていることが、原油市場に極度の緊張感をもたらしている。

ロシアの石油生産は日量1,130万バレル(IEA調べ)に達しており、その60%が欧州(先進国)に向けて輸出されている。これだけの規模の石油供給を代替できる国は、石油輸出国機構(OPEC)も含めて存在しないとみられる。だからこそ、3月2日に国際エネルギー機関(IEA)が臨時閣僚会合で6,000万バレルの石油備蓄放出を決めたことにさえ、原油相場は特段の反応を示さなかった。

原油価格沈静化に必要なのは、臨時で追加供給を増やすことではなく、ロシア抜きで世界の石油需要を満たす供給環境を確保できるのか、不透明感を解消していくことだ。それは容易に答えを見つけることが可能なものではなく、そもそも答えがあるのかも分からない。それだけに、原油高が長期化・深刻化し易い状況になっている。