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ワクチン開発の報道で、原油価格が10%近く急騰

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

原油価格が急騰している。NY原油先物相場は、先週末の終値が1バレル=37.14ドルだったのに対して、週明け9日の取引では一時40.82ドルまで急伸し、前日比で3.68ドル高(9.9%高)となっている。

米ファイザーが独ビオンテックと共同開発している新型コロナウイルスのワクチン候補について、数万人が参加した治験で90%を超える確率で感染を防いだとの暫定結果が得られたとの報道がきっかけである。更なる試験で安全性が確認できれば、当局から緊急使用の許可が下りる可能性が開けたと報じられている。

今年の原油価格は、新型コロナウイルスのパンデミックによって、大きなダメージを受けている。感染リスクに対する恐怖心、ロックダウン(都市封鎖)を含む行動規制、更にはリモートワークなど行動様式の変化によって、輸送用エネルギー需要が大きなダメージを受けた結果である。自動車はもちろん、飛行機を使った人の移動も極端に落ち込み、石油輸出国機構(OPEC)やロシアなどの協調減産によって、辛うじて原油需給の極端な緩みを防いでいる状態にある。

ここ最近は経済活動の正常化プロセスの影響もあって、輸送用エネルギー需要も回復傾向にあったが、特に飛行機が飛ばない状況でジェット燃料需要の低迷が続く中、原油相場はパンデミック前の50~60ドル水準に対して、40ドル水準を回復するのに精一杯の状態が続いていた。9月以降は欧米で再びパンデミックが深刻化し、欧州ではロックダウン再開の動きも広がりを見せる中、原油相場は逆に30ドル台中盤まで値下りするような動きも見せていた。

このタイミングで浮上してきたのが、今回報じられた新型コロナウイルスのワクチン開発成功の可能性である。有効なワクチンが開発されて各国で広く使用されれば、ヒトやモノの移動が正常化し、ガソリンやディーゼル、ジェット燃料などの需要が正常化する可能性が浮上することになる。

現実には、本当に有効なワクチンが開発できるのか、開発したとしても多くの人が緊急開発されたワクチンを接種するのか、それでパンデミックが本当に収束するのかなど、大きな問題を抱えている。また、人々の行動様式が大きく変わってしまったため、仮にパンデミックが終息しても石油需要は従来の水準に回復しないとの見方も強い。

ただ、もし原油需要が急激に回復する展開があるとすれば、そのきっかけになる可能性があるのはワクチン開発となるだけに、マーケットは今回のワクチン開発の治験成功の報道に敏感に反応している。石油需要正常化の織り込みは時期尚早とみられるが、少なくともワクチン開発に対する原油市場の期待感の強さは再確認できる状況になっている。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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