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ドイツでアフリカ豚熱が確認されると、シカゴのトウモロコシ相場が急伸した

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:cap10hk/イメージマート)

欧州で発生したアフリカ豚熱(ASF)が、シカゴのトウモロコシ先物相場を約5カ月ぶりの高値圏まで押し上げている。

ドイツは欧州で最大の豚肉生産国であるが、9月10日にブランデンブルク州のポーランド国境付近でイノシシの死骸からアフリカ豚熱の感染が確認されたと当局が発表している。夏に入ってからポーランドで感染被害の広がりが報告されていたが、ドイツでも既に感染が広がっている可能性が指摘されている。

ドイツは中国向けの主要な豚肉供給国であるが、アフリカ豚熱が発見された以上、中国はドイツ産豚肉の輸入制限に踏み切らざるを得ない状況になっている。日本も9月11日、ドイツからの生きた豚、豚肉等の輸入を一時停止する措置を講じている。どの程度の期間にわたるのかは不透明だが、豚肉の国際流通に大きな影響が生じかねない動きになる。

しかも、今季は中国国内の豚肉供給が不足していることで、同国では国内の増産・輸入を急いている最悪のタイミングに、ドイツ産豚肉の供給にトラブルが発生した格好になる。豚肉価格の高騰は中国国内で社会問題化しており、当面はドイツ産以外の調達量を増やさざるを得ない状況になる。こうした中、米中通商合意の履行のために米国産品の輸入を増やす必要がある政治的要請もあり、マーケットでは米国産豚肉に対する需要が急増するのではないかとの観測が浮上している。

9月10日にCMEの赤身豚肉先物相場は、前日比で5.0%の急伸地合になっている。中国向け需要の急増を先取りする動きを見せた訳だ。こうして豚肉価格が急伸すれば、当然に畜産業者の増産意欲は強まることになる。米国内で豚の畜頭数が増えれば、必然的に飼料需要も増えることになる。また、仮に中国が国内で豚肉の増産体制を一段と強化すれば、飼料そのものを一段と多く輸入する可能性も浮上することになる。

このため、CMEトウモロコシ先物市場では国内飼料用の需要、もしくは輸出需要の拡大期待を織り込む動きが優勢になった。もともと、最近の熱波の影響で作柄悪化リスクを織り込む形で底固い展開になっていたが、飼料需要急増の思惑から、約5カ月ぶりの高値を更新している。

「欧州でアフリカ豚熱が発生したこと」と「シカゴトウモロコシ相場が急伸したこと」は一見すると無関係だが、中国の旺盛な豚肉需要をどのように消化するかという視点が介されたことで、この二つの現象がリンクされている。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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