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金とビットコインの同時高が意味すること 問われる法定通貨の信認

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:アフロ)

貴金属の金に続いて、暗号資産(仮想通貨)のビットコイン価格も高騰し始めた。Refinitivのデータによると、週末の7月26日に1ビットコイン=1万ドルの節目を突破したが、28日には一時1.14万ドル台まで値上がりし、今年の最高値を更新している。既に金価格が1オンス=1,900ドル台に乗せて過去最高値更新を窺う展開になっていたが、このタイミングでのビットコイン価格の急騰は、ドルや円といった法定通貨に対する信認低下を反映した動きではないかと指摘されている。

各国通貨は法律によって強制通用力を担保されているため、一般的に法定通貨(法貨)と呼ばれることになる。究極的には国の信用が通貨価値を裏付けている。例えば、日本では日本銀行法によって「日本銀行が発行する銀行券は、法貨として無制限に通用する」とされており、国内においては日本銀行券を使った債務弁済を拒否することはできない強制力を有している。

一方、金やビットコインには管理者が存在せず、金の場合だと希少性のある実物、ビットコインの場合だと複雑なブロックチェーン技術によって、その価値が担保されている。各国の法律とは関係なく通用力を有しているため、法定通貨に対して代替通貨といった呼称もある。

金とビットコインには共に様々な価格変動要因があるため、必ずしも同一の値動きをする訳ではない。実際にここ数か月は金価格が高騰していたのに対して、ビットコイン価格には目立った変動がみられなかった。しかし、ここにきて金とビットコインが同時に高騰し始めたことは、法定通貨に対する代替性が評価され、投機マネーが金とビットコインを同時に物色し始めている可能性を示唆している。

現在、世界各国の中央銀行は新型コロナウイルス対策で強力な金融緩和策を展開中である。米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)がゼロ金利政策に加えて無制限の資産購入策(量的金融緩和策)を展開しており、大量のマネーを供給し続けている。その一方で、米政府は巨額の財政出動を伴う大型景気対策を次々と発動しており、国の信用が損なわれかねない状態に陥っている。

マーケットでは、新型コロナウイルス対策という有事にあって、金融緩和も財政政策も容認せざるを得ないとの消極的な支持が優勢である。しかし、新型コロナウイルスが終息に向かう目途は立たず、景気も長期停滞を迫られるのではないかとの警戒感は根強い。低金利環境は長期化の様相を呈しており、インフレ率を考慮に入れた実質ベースだと米国も含めてマイナス金利状態に陥っている国も少なくない。

しかも、米国はこのタイミングで米中関係の緊迫化を促しており、これまでの「有事のドル買い」が、ここにきて「有事のドル売り」に転換し始めている。投資家のドル資産に向ける視線は厳しさを増しており、従来の法定通貨間における安全通貨とリスク通貨との区分では対応できない状況に陥り始めている。

ドル急落、金価格高騰、ビットコイン価格高騰が同時に進行していることは、マーケットが法定通貨に対して不信認を突き付け始めた危険な兆候とみるべきなのかもしれない。金もビットコインも保有しているだけでは金利などを収入を生むことがないが、それでもドルを金やビットコインに交換しておきたいと考える向きが増え始めているのだ。

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マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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