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有事の小麦買い? 小麦先物価格が3日で10%上昇

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:アフロ)

小麦の国際価格が、突然に急伸し始めた。シカゴ小麦先物価格(中心限月)は、3月16日に1Bu(ブッシェル、1Bu=27.215kg)=492.00セントと昨年10月11日以来の安値を更新していたが、19日の取引では一時541.00セントまで、僅か3日で最大10.0%の急伸地合になっている。

今年は潤沢な国際供給環境、また株価や原油価格急落による投資環境の悪化もあり、小麦価格はほぼ一貫して値下りしていた。原油価格急落の影響でエタノール需要減少の思惑からトウモロコシ価格が急落したこともあり、小麦価格も値下り傾向が目立っていた。しかし、今週に入ってから突然に安値修正の動きが強まり、主要なマーケット価格が軒並み急落する中で、小麦価格は際立って異常な値動きをみせている。

その背景として指摘されているのが、新型コロナウイルスの感染被害拡大を受けて、消費者が小麦を原料とする食料品を買いだめしている影響だ。新型コロナウイルスの感染被害の中心が中国から欧米に移動する中、欧米諸国は入国規制の強化と同時に、国内でも外出規制の動きを強め始めている。例えば米ニューヨーク州では3月15日にレストラン、バー、カフェなどの18:00以降の営業禁止が決められ、外食産業が壊滅的被害を受けている。

こうした中、消費者は食料品や日用品などの買いだめを進める動きを強めている。欧米では、その買いだめ行動の対象にパスタやパンがあり、短期的に原料である小麦の需要が急増するとの観測が広がっているのだ。

供給には問題がないと各国政府や食品各社が発表しているが、店頭での需要が短期的に急増する中、品薄感が更に需要を押し上げる状況になっている。正確な統計はないが、パスタ売上高が突然に100%増えたといった報告も目立つ。日本で、数週間前にみられて漸く終息に向かっているトイレットペーパーの買いだめに近い現象が観測されている。

コモディティ市場では、「有事の金買い」という言葉があるが、足元の金価格は投資家のキャッシュを求める動きから急落している。穀物や農産物市場にとっても、基本的には経済環境の不安定化はネガティブ材料と評価される傾向が強い。しかし、現在は「有事の小麦買い」とも言える異常な現象が観測されている。過去にはあまり見たことのない値動きであり、新型コロナウイルスの感染被害がコモディティ市場に与える影響の特殊性が、よく窺える状況になっている。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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