トランプ米大統領1年目の金価格は10%上昇

(写真:ロイター/アフロ)

2017年1月20日にドナルド・トランプ氏が第5代アメリカ合衆国大統領に就任してから1年が経過した。メディアでは米国内外に様々な「混乱」をもたらしているとの批判も目立つが、その間の金価格は総じて堅調に推移した。国際指標となるCOMEX金先物相場の場合だと、大統領就任当日の1オンス=1,204.90ドルに対して、今年1月22日時点(※20日と21日は週末)では1,331.90ドルとなっており、実に10.5%もの値上がりになっている。最安値は大統領就任直後の17年1月27日に付けた1,179.70ドルである一方、最高値は17年9月8日の1,362.40ドルとなっている。

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■トランプ政権下で金が買われた理由

トランプ大統領誕生前の時点では、経済政策に混乱が生じ、米経済は停滞するといった論調もあったが、振り返ってみれば米経済は良好だった。17年通期の国内総生産(GDP)は2.3%成長となり、16年の1.5%成長を上回っている。国際通貨基金(IMF)は「税制改革が経済活動を刺激する」ことが見込まれるとして、18年には更に2.7%までの成長加速を見込んでいる。株式市場に目を向ければ、ダウ工業平均株価は17年1月20日の1万9,827.25ドルから今年1月22日の2万6,214.60ドルまで、32.2%もの上昇率を記録している。トランプ政権下でダウ工業平均株価が下落した月は17年3月のみであり、それ以外の11カ月は全て上昇している。

一般的には「安全資産」の金が注目される余地はない状況とも言えたが、実際には金市場に対しては断続的に投機資金が流入する状況が作られた。皮肉にも株価の急騰が、金市場に対する投資ニーズを喚起したのである。ビジネスフレンドリーなトランプ政権の経済政策は、株式相場にバブル的な高騰をもたらした。この結果、投資家の観点からは株価高騰を歓迎しつつも、このままの状況が続くのかという不安感も高まり、「万が一の事態」に対応するための保険として、金が購入されたのだ。これが顕著に表れたのが金上場投資信託(ETF)であり、トランプ大統領就任時の1,655トンに対して、1年後には1,746トンまで拡大している。株高局面において、株式の保有資産が増える動きと連動して、金保有量も拡大したのである。

そして、もう一つの要因がドル安だった。大統領選直後はトランプ大統領の拡張的な財政政策に対する期待・警戒感から米長期金利が急伸し、ドル高圧力が発生していた。しかし実際に大統領に就任した後のドルインデックスをみてみると、100.74ポイントから90.12ポイントまで10.5%下落している。1月に入ってから米政府の「強いドル」と「弱いドル」政策を巡る議論も活発化しているが、実績としてトランプ政権下のドルは弱含みに推移している。これがアメリカファースト政策の影響かは議論があるものの、米金融政策が緩和から正常化に向かう過程においても、国際基軸通貨であるドルが軟化したことが、代替通貨としての金に対する資金流入を促した。

そして最も金価格に対する刺激が大きかったのは、地政学リスクの高まりだった。シリア情勢なども注目されたが、トランプ政権1年目で金価格が最高値を付けたのは、米朝軍事衝突のリスクが高まった17年8~9月にかけて、米朝の間で批判合戦が繰り広げられ、北朝鮮が核実験を実施し(9月3日)、米原子力空母が朝鮮半島付近に展開された時だった。その後、北朝鮮情勢のリスクを積極的に織り込むような動きはみられなくなり、ボラティリティ指数(恐怖指数)は歴史的低水準に回帰したが、これもマーケットに漠然とした不安心理をもたらし、「安全資産」の金を保有する動きにつながった。すなわち、リスクを十分に織り込んでいないのではないかとの疑念が高まったのである。

■金を持ちたい漠然とした不安心理

ドル安に関しては必ずしもトランプ政権の影響とは言えず、マーケット環境全体でみればトランプ政権は投資家に歓迎される政策を矢継ぎ早に繰り出している。しかし、こうしたリスクオン環境でも金価格が上昇していることは、良好な実体経済環境や株高の恩恵を享受しつつも、漠然とした先行き不透明感を抱いている向きが多い証拠と言えるのかもしれない。

なお、東京商品取引所(TOCOM)の円建て金価格をみても1グラム=4,385円から4,734円まで、8.0%の上昇率が記録されている。