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米国の天然ガス価格が、年初から20%超の急騰

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:アフロ)

米国の天然ガス価格が高騰している。NYMEX天然ガス先物相場は1月22日の取引で1mmBtu=0.220ドル(6.8%)高の3.444ドルとなったが、これは1日の上昇率としては2016年10月以来で最大であり、価格水準としては16年12月30日以来の高値を更新している。23日の取引でも更に3%前後の上昇率が記録されており、冬の需要期に入った後も2.5~3.2ドル前後の価格水準で伸び悩んでいた相場が、3.5ドル台まで一気に価格水準を切り上げた格好になる。

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理由は単純であり、寒波による需要上振れ、それに伴う在庫タイト化リスクに対する警戒感が、天然ガス市場に対する投機マネー流入を加速させていることだ。今季は暖冬スタートになった結果、暖房用エネルギー需要に対する在庫手当には余裕があるとの評価から、昨年12月21日には2.568ドルまで値下がりしていた。しかし、日本にも強烈な寒波をもたらしている北極振動は米国でも東部地区を中心に急激な気温低下をもたらしており、暖房用エネルギー需要の上振れリスクを高めている。

その影響が顕在化した一つは原油相場の高騰であるが、ここにきて天然ガス市場でも需要の上振れから在庫の「余剰感」が「タイト感」に転換しつつあり、それがリスクプレミアムとして天然ガス相場に加算され始めている。

米エネルギー情報局(EIA)の週間統計によると、今季は昨年10月10日の週から米国内在庫の取り崩しが始まったが、全米の天然ガス在庫は10月3日時点の3兆7,900億立方フィートに対して、12月8日時点ではまだ3兆6,260億立方フィートまでの小幅減少に留まっていた。その時点での過去5年のレンジは(3兆3,320億~3兆8,610億立方フィート)であり、5年レンジ上限付近の在庫水準には、まだ一定の余裕がみられた。暖冬でそのまま需要の伸びが鈍ければ、春の需要の端境期に向けて必要以上の在庫を繰り越す可能性さえ想定されていた。

しかし、年末・年始の寒波と連動して在庫減少ペースは一気に加速しており、直近の1月12日時点では2兆5,840億立方フィートまで減少している。これは前年同期比12.5%減、5年平均比で12.3%減であり、一気に在庫水準のタイト感が強くなっている。

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日本で寒波が深刻化する一方、米国の寒波は緩み始めており、2月に向けてパニック的な高騰相場が続く可能性は低い。過去の傾向からみても、在庫タイト感が残されていても気温上昇傾向が強まれば、天然ガス相場は下押しされる傾向が強い。このため、急騰はしているものの短期上昇圧力との評価が基本になる。

ただ、投機筋はシーズン初めに暖冬予想から暖房用エネルギー需要期を売り越し状態で迎えた反動から、需要期終盤の寒波に慌ててショートカバー(買い戻し)を迫られると同時に新規買いポジションを構築する動きが、必要以上の値動きの荒さをもたらしている。昨年末からの上昇率は最大で22.8%にも達しているが、「暖冬→寒波」へと急激な気象環境の変化が、天然ガス相場に対してもパニック的な高騰を促している。急激な気温の変化は人の体調不良をもたらすことが多いが、天然ガス相場も突然の気温変化には大きなショックを受けることになる。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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