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パンが更に小さくなるリスク高まる ~小麦価格が2年ぶりの高値更新~

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:アフロ)

パンや麺類などの原料になる小麦価格が急騰している。国際指標となるCBOT小麦先物相場は、5月末の1Bu=429.50セントに対して、6月末には526.00セントまで急騰していたが、7月3日の取引では更に556.00セントまで上値を切り上げる展開になっている。これは2015年7月以来となる、約2年ぶりの高値を更新していることを意味する。

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今年に入ってからの小麦相場は、潤沢な国際需給を背景に400~450セント水準で上値の重い展開が続いていた。世界の期末在庫は、2015/16年度の2億4,257万トンに対して、16/17年度が2億5,643万トンと高止まりしており、今後の需要には余裕を持って対応することが可能だとみられていたためだ。

トウモロコシや大豆相場が、米穀倉地帯の天候不順などを手掛かりに急伸しても、小麦に関しては多少の在庫調整で乗り切ることは可能との楽観ムードが強く、安値低迷状態が続いていた。急落こそなかったが、穀物市場全体の中でもパフォーマンスの悪さが目立っていた。

しかし、6月中旬になると欧州の熱波を材料視する形で、ここ最近の高値限界となっていた450セントを上抜く動きを見せた。小麦は世界の総生産の37%(2016/17年度実績)が欧州と旧ソ連諸国で生産されているが、欧州から黒海周辺にかけて記録的な熱波が発生したことが、欧州や旧ソ連産小麦の不作を強く警戒させたのである。

一部地域では最高気温が40度を超えており、ポルトガルやスペインでは過去最悪とも言われる山火事が発生している。テニスの「ウィンブルドン」でも熱波への対応が問題になっているが、北半球の小麦は出穂が始まって成熟期を迎えているため、特に春小麦小麦への生産被害が強く警戒されている。冬小麦に関しては、寧ろ収穫後の乾燥が早く進むといった好意的な受け止め方もあるが、世界の三分の一以上の小麦生産地帯の異常気象が、小麦価格を強く刺激しているのだ。

しかも、今年は米国でも久しぶりに大規模な干ばつ被害が報告されている。カナダとの国境近くのノースダコタ州、サウスダコタ州、モンタナ州などでは土壌水分不足が深刻化しており、厳しい干ばつ被害が発生している。4~5月にかけては多雨による土壌水分過多が警戒されていたが、今や穀倉地帯北部では6~7割の農地面積で土壌水分不足が報告されている。

その影響は当然にトウモロコシや大豆など他の農作物にも影響を及ぼすが、現在の干ばつ被害は冬小麦の主要生産地に集中していることで、特に小麦相場が産地気象環境に強い反応を示している。トウモロコシや大豆は東部地区などの生産が安定しているが、春小麦の生産地はほぼ干ばつ発生地域と重複していることが、マーケットの危機感を高めている。

これによって小麦供給不足が深刻化するのかは疑問視しているが、まだ収穫時期を迎えて収量が確定するまでは時間があるため、小麦相場は最悪の事態に備える必要性に迫られている。収穫時期を迎え、多少の不作でも需要への対応は可能な在庫が確保できているとの冷静な評価が可能になるまでは、小麦価格は高値波乱の展開が続き易い。

そして、当然にこうした高値圏での取引が続けば、国内のパン、うどん、パスタ価格などにも影響が生じてくることになる。コンビニなどで売られているパンは、更に小さくなってしまう可能性が高まっている。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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