英金融行動監視機構(FCA)は5月23日、ロンドン地金協会(LMBA)が発表する金価格(London Gold Fix)の価格操作が行われたとして、英金融大手バークレイズの元トレーダーであるダニエル・プランケット氏に9万5,600ポンド(約1,640万円)の制裁金を課すと同時に、業界からの追放を命じた。また、バークレイズに対しても内部管理の監督責任を追及し、2,603万3,500ポンド(約44億7,490万円)の制裁金を課した。

ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の恣意的操作が金融業界の一大スキャンダルに発展した流れで、近年は金融指標と同様にコモディティに関してもロンドン金やWTI原油などの指標価格が捜査・調査の対象になっていた。

ただ、金市場関係者の間ではLIBORとは違ってLondon Gold Fixの価格操作は困難との見方が支配的だった。LIBORは各金融機関が自行の貸し出し金利を申告し、そこから上位と下位を除外して平均を算出するため、高過ぎる(あるいは低過ぎる)金利水準を複数行が申告すれば、比較的容易に不正操作が可能であり、構造的に恣意的な不正操作ができるようになっていた。

一方、London Gold Fixは買い手と売り手のバランスが取れる価格を探すセリ方式の「値決め」で決定されるため、異常な価格を提示しても他からの売買注文によって調整され、価格コントロールは極めて困難な仕組みになっている。このため、「LIBORとLondon Gond Fixは違う」というのが筆者も含めた専門家の一般的な見方だった。

こうした中、London Gold Fixも価格操作が不可能ではないことが判明したのが今回の事件である。

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■意外と単純だった金価格の操作

事件の舞台になったのは、2012年6月28日のLondon Gold Fixにおける午後の値決めである。バークレイズは同価格が1オンス=1,558.96ドルを上回った際に顧客に対して390万ドル(約3億9,750万円)相当を支払う義務がある契約を締結していた。一方、元トレーダーのプランケット氏は逆にこの1,558.96ドルを下回った際に、175億ドルの利益が得られるオプション取引のポジションを構築していた。

そこで6月28日にどのような価格になるのかが注目される訳だが、プランケット氏はこの値決めの際に自らが断続的に売り注文を出すことで、意図的に1,558.96ドルを下回る価格形成を促したとされている。加えて、前日の6月28日には、金取引関係の同僚に対して明日の金価格が「ちょっと吐き出す(mini puke)」ことを希望しているとのE-mailを送信している。FCAは、この文言は金価格の下落を意味するものだとしている。

このE-mailの効果があったのかは不明だが、FCAによると「値決めの行われている間に(プランケット氏は売り)注文を出し続け、Gold Fixの価格が一定水準を下回る可能性を高めた」とされており、同氏はこれを認めている。

では、この価格操作は成功したのかとなるが、皮肉にも成功してしまったことが不正が明るみに出るきっかけとなった。同日の金価格は1,558.50ドルとなっており、午前の値決めの1,567.50ドルから突然に急落し、顧客が利益を得られる価格水準をギリギリで下回っている。この不自然な値動きに疑問を持った顧客が調査を求めたことで、不正な価格操作が表沙汰になったというのが、今回の事件の大きな流れである。

■ロンドンとニューヨークの競合にも影響

これによって僅か5金融機関によって決定されるLondon Gold Fixの信頼性低下は避けられず、例えば産金会社Rand goldは金価格のベンチマークをLondon Gold FixからニューヨークのCOMEX金先物の終値に変更するかを検討していることを明らかにしている。LIBORとは違って金の指標価格は複数あり、「現物=ロンドン」、「先物=ニューヨーク」という数十年続いてきた金取引の住み分けが変化を迫られる可能性もある。

現実問題としては、London Gold Fixを代替できるような大口の注文をさばける金現物市場は存在しない。簡単にロンドン現物市場の覇権が失われることはないだろう。ただ、金取引のパワーバランスが一段とニューヨークに傾斜する可能性が高くなっているのは間違いない事実である。

そして、2012年という比較的最近にもかかわらず、顧客と金融機関との間で、このような単純な利益相反関係が放置されていたことにも驚きが隠せない。これから不正再発を避けるために規制強化の動きは避けられず、大手金融機関の金取引撤退といった動きにまで発展すると、金価格のボラティリティは一段と高まることが予測される。