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ハンバーガーを食べると地球温暖化が進む?

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

国連食糧農業機関(FAO)は、9月26日に発表した「畜産による気候変動への取組に関する報告書」において、人類の活動によって排出される地球温暖化ガスのうち、畜産関連分野が14.5%を占めているとの試算を明らかにした。

地球温暖化ガスと言われると、一般的には工業分野が強くイメージされ易いかもしれない。実際に、この分野が温暖化ガス問題において最優先で取り組むべき分野であることは間違いない。しかしグローバルな地球温暖化対策においては、家畜分野での温暖化ガス排出をいかに抑制するのかも、重要なテーマになり得ることが具体的な数値を以って再確認されたのが今回の報告である。

同報告によると、畜産から排出される温暖化ガスは、二酸化炭素換算で年間7.1ギガトン(71億トン)に達している。これだけでも極めて大きな規模であるが、畜産分野の食糧需要は2050年までに70%の成長が見込まれており、何らかの対策を講じないでこのままの家畜頭数と同じ比率で温暖化排出ガスの増加が続くと、世界気象環境を一変させかねないだけの潜在的なエネルギーを有していることに対して、強い警戒感が示されている。

FAOは、「世界の気温上昇幅を2度以下に抑え」て、「危険な」気候変動を回避するためにも、この分野にも積極的に取り組む必要性を強調している。安定的な食料供給を確保する観点からも、畜産関連分野からの温暖化ガスをいかに抑制するのかが重要なテーマになっている。

■世界の温暖化ガス供給、1割が牛

特に気候変動への影響が大きいとされているのが、肉牛畜産と酪農である。畜産全体の温暖化ガス排出の41%が肉牛、20%が酪農であり、概ね65%が「牛」が原因と報告されている。ちなみに、養豚は9%、養鶏は8%であり、同じ畜産業でも温暖化ガスという観点では地球に優しくなっている。

温暖化ガス全体でみると、9.4%相当が牛によって排出されている計算になる。FAOは特に牛肉や乳製品の使用を抑制することなどは求めていない。それよりも、いかに現行の畜産供給システムの下で、温暖化ガスの排出を抑制するかに重点が置かれている。

ただ民間の研究では、同じ重量の食肉生産において、豚肉は牛肉との比較で4分の1、鶏肉は10分の1の温暖化ガス排出に留まるとの調査もある。純粋に温暖化対策という観点で考えるのであれば、牛肉から豚肉や鶏肉へのシフトが望ましいと言えるのかもしれない。

牛肉100%のハンバーガーよりもチキンのハンバーガーの方が、牛丼よりも豚丼の方が、気候変動に対してはやさしいと言えそうだ。

さて、牛は胃の中に大量の微生物を保有しており、この微生物が牛の食べた草を分解発酵することで、栄養分を吸収している。しかし、この分解発酵の際にはメタンガスが発生するため、これを放置しておくと牛の胃は破裂してしまうことになる。このために、ゲップとしてメタンガスを大気中に放出している訳だが、これが地球温暖化の要因になっている。

FAOの研究では、畜産の効率性を高めることで、温暖化ガス排出を30%削減することが可能と報告されている。具体的には、食肉生産システムの効率化で畜頭数を削減すること、よりメタンガス排出が少ない飼料を適切に使用することなどであり、基本的には現在の技術レベルで達成できるものになっていることが強調されている。

ただ、その実現のためには新興国・途上国を中心に政府による金融面でのインセンティブ供与が必要ともされており、今後の地球温暖化対策の枠組みの中において、畜産分野の対策も強化される動きが広がるのかに注目したい。

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マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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