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MLSでもメッシは神がかりの常勝。なぜPK戦でも勝ち上がれるのか?インタビューでの答え

小宮良之スポーツライター・小説家
MLSでも大活躍のメッシ(写真:ロイター/アフロ)

MLSで「メッシショー」開幕

 パリ・サンジェルマンからMLS(メジャーリーグサッカー)、インテル・マイアミに移籍したアルゼンチン代表FWリオネル・メッシ(36歳)が”猛威”を振っている。

 言わずと知れた世界最高のサッカー選手であるメッシだが、東地区で最下位だったインテル・マイアミに入団するやいなや、いきなりタイトルを勝ち取った。リーグカップに出場すると、7試合連続10得点。強豪を次々に倒し、優勝に貢献したのである。

 続くUSオープン準決勝でも、2点をリードされた展開で2アシストと同点に追いつく活躍を見せている。試合は延長PK戦の末、決勝に進出。120分間を戦い切るだけでも驚きだが、二つ目のタイトルに王手だ。

「メッシショー」

 それはMLSデビュー戦でも続いている。ニューヨーク・レッドブルズ戦、途中出場で勝利に直結するゴールを記録。見事に最下位から脱出させた。

 そのスキルは神がかっているが、レッドブルズ戦の初ゴールは真骨頂だった。

 自らボールを運び、パスをつけ、そのリターンをセルヒオ・ブスケッツが左に展開。ジョルディ・アルバのオーバーヘッドでの折り返しを、メッシはエリア内で受ける。そして二人相手にキープすると、わずかな隙間を作って左アウトサイドで魔法的なパス。これに走り込んだアルゼンチン人の18歳、ベンハが折り返し、走り込んでいたメッシが簡単に合わせた。

 一人で豪快にゴールすることだって、メッシはできる。しかし、コンビネーションの中でのサッカーはスペクタクルだった。バルサ時代の全盛期をほうふつとさせた。

 ただ、技術以上の何かが彼にはある。

PK戦すら強いメッシ

 リーグカップ、メッシ擁するインテル・マイアミはグループリーグ2試合を勝ち抜き、ラウンド32も制し、ラウンド16に進んでいる。ダラス戦、残り5分でリードを許していた。そこで輝いたのがメッシで、FKを得て直接放り込み、同点に。PK戦でもメッシが先頭で決め、勝者となった。決勝でもメッシは貴重な先制点を記録。1-1でPK戦に突入後、やはり1番目に蹴って成功し、勝者となっている。

<PKすら強い>

 それがメッシの本質だろう。もちろん、PK戦は他のキッカーがいるわけで彼だけで決まるものではない。しかし、負けるはずはない、という気運を作れるのだ。

 絶対的な勝者ぶりは、USオープンの準決勝のPK戦でも同じだった。

 振り返ってみれば、カタールW杯でも、メッシは勝負師として燦然と輝いていた。

 準々決勝、オランダとの死闘で一人目のキッカーとしてボールを蹴り、見事に決めている。この雄姿がチームに自信を与え、オランダのキッカーたちを追い込み、勝利につながった。そしてフランスとの決勝でもPK戦に持ち込まれたが、先頭でメッシが成功すると、フランスのキングスレイ・コマン、オーレリアン・チュアメニが立て続けに失敗し、勝負を決した。

「PKは投げたコインの裏表」

 そう言われて久しいし、運が決する要素は大きい。必ずしも、スキルに優れた選手が活躍するわけでもないのだ。

 しかし、生来の勝者であるメッシは運さえも引き寄せる。

敗北を憎むメンタリティ

 言い古された言葉を使うなら、それは「勝利のメンタリティ」になるのだろうか。もっとも、それは生半可ではない。敗北を憎悪し、許容しない背水というのか。

 かつて筆者が行ったインタビューで、メッシがこう洩らしていたことがあった。

「僕は全部勝ちたい。どれか(のタイトル)を選ぶなんてとてもできないね。どうしてそこまで勝つことにこだわれるのか? それはアルゼンチン人だからさ。僕はどんな試合でもすべて勝つ、という気持ちでやる。アルゼンチン代表だったら、なおさらでしょ? 負けたら? そんなこと、僕は想像もしない」

 それはアルゼンチン流というべきか、面食らうほどの徹底的勝利主義で、敗北を憎んですらいた。

「敗北を糧に強くなる」

 そんな道徳観は理解することができないようだった。

 はたして、どれだけの人がそんな生き方ができるのだろうか。メッシはフットボールに愛されて生まれたのかもしれないが、何より、彼自身がフットボールを愛しているのだろう。ピッチの上では必ず勝者になるという精神でトロフィーを掲げる姿は、神々しいほどだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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