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「芸能人が全員死亡」に戦闘機も相次ぎ墜落…北朝鮮航空の重大事件

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 北朝鮮の金正恩総書記は、国家航空総局飛行安全検閲室の検閲員キム・ギョンス氏の死去に際して、花輪を送った。朝鮮中央通信が9日、伝えた。

 同通信によると、空軍上将のキム・ギョンス氏は金日成勲章受勲者であり、「長い期間、政府飛行隊の専用機責任飛行士、政府飛行隊の隊長を務めながら党と革命、祖国と人民が彼に付与した聖なる重任を忠実に遂行したし、生涯の最後の瞬間まで国の航空運輸発展に大きく寄与した」だという。

 キム・ギョンス氏はその名が広く知られた最高幹部ではないが、乗り物好きとして知られる金正恩氏は、側近のひとりと考えていたのかもしれない。それに老朽化の著しい飛行機を操縦しなければならない北朝鮮のパイロットは、毎日が文字通りの「命がけ」だ。

 それでも金正恩氏は、コロナ前までは割と頻繁に専用機を利用しており、飛行機好きであることをうかがわせた。しかし父の金正日総書記は、どんなに遠くへ外遊する際にも決して飛行機を使おうとしなかった。正確に言えば、1965年に父・金日成主席のインドネシア訪問に同行した際には、いっしょに飛行機に乗っている。

 それなのに、最高指導者になってから一度も飛行機を使わなかったのは何故か。韓国紙・東亜日報のチュ・ソンハ記者が自身のブログなどで明かしたところでは、1971年(あるいは翌年)に「血の海(ピパダ)歌劇団」がキューバ公演に向かう途上、乗っていた旅客機が爆発。当時、最高の人気を誇った劇団員たちが全滅した事件からショックを受けたためだという。

 ちなみに、この事故をめぐっては、当時のトップ女優を夫から奪う形で内縁の妻としていた金正日氏が、その経緯を良く知る歌劇団員たちを忙殺した、との噂が北朝鮮国内では囁かれてきたと、チュ氏は明かしている。

(参考記事:【写真】機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇

 チュ氏も認めるとおり、これは真偽不明の噂ではあるが、金正日氏が自分の愛人の口を封じたという話はほかにも伝わっている。

 いずれにしても、北朝鮮のパイロットたちはたいへんなリスクを背負っている。空軍においても、数十機が動員される大規模な演習では、無事に帰還できない機が複数出ると言われている。

 さらに、航空燃料の管理不備などによる格納庫の爆発や火災で、数十人の兵士が一度に死亡したというような情報も伝わっている。

 北朝鮮は最近のロシアへの弾薬供給の対価の一部として、老朽化した金正恩氏の専用機や、空軍機の更新を目指しているとも言われる。しかし、機体が新しくなれば事故リスクは下がるかもしれないが、十分な数が揃えられるとは限らない。また慢性的な経済難の中で、適切な整備ができるかは不透明だ。

 北朝鮮のパイロットたちの受難は、今後もしばらく続くだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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