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北朝鮮「ヤミ金の黒幕」美貌の奥様のウラの顔

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩夫妻とモランボン楽団(朝鮮中央テレビ)

 北朝鮮の重要な資金源である金(ゴールド)。国内には複数の金鉱が存在するが、労働者は厳重な管理下に置かれ、金を盗み出すことはもちろんのこと、個人が所有、売買することも固く禁じられている。

 ただ、金の密輸は非常に儲けが大きいこともあってか、命がけで手を出す人が後を絶たない。そのためには、金鉱と関わる機関の内部協力者の存在は不可欠だろう。

 密輸との関係は不明だが、平安北道(ピョンアンブクト)の外貨稼ぎ機関傘下の金鉱会社の社長の美貌の妻が殺害される事件が起きた。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。金鉱を任された社長ともなれば相当な富裕層だが、その夫人に何が起きたのか。

 事件が起きたのは先月中旬。この会社の社長の息子が自宅に戻ったところ、母親が頭から血を流して倒れているのを発見した。彼女はすでに息を引き取った後だった。

 通報を受けた安全部(警察署)は、周辺で聞き込み調査を続けた。その結果、ヤミ金業と金の密輸を行っていた40代の女性が捜査線上に浮上。犯行を認めたことから逮捕した。もちろん、すんなり自白したのではなく、激しい拷問により口を割ったのだ。

(参考記事:激しい拷問に耐え続けた北朝鮮「レザーの女王」の壮絶な姿

 この女性は道内のヤミ金業の組織に加わっているが、社長の妻から度々カネを借り、要求された利子を付けてきちんと返済していた。どうやら社長の妻はヤミ金の「金主」だったようだ。ある意味で、彼女こそヤミ金の黒幕だったと言えるだろう。

 今回も、犯人の女性は急にカネが必要になって借りに行ったものの、冷たく断られた上に、鼻で笑われたことにカッとなって殺害したとのことだ。

 さらなる取り調べで、女性は新義州(シニジュ)に住む組織のワンチョ(ボス)から、5万ドル(約713万8000円)を急ぎで上納するよう指示されていたことが判明した。ワンチョの権威は強大で、逆らおうものなら組織から切られ、金儲けができないよう完全に「干される」ことになる。安全部は、女性がワンチョの指示に従ってカネをかき集めようと焦っていたが、うまくいかなかったことで犯行に及んだものと見ている。

 北朝鮮には複数の国営銀行が存在するが、個人が融資を受けることはできず、また、銀行への信用がないため、誰も利用しようとしない。そこでヤミ金からカネを借りることになる。北朝鮮刑法はヤミ金を違法としているが、庶民も金持ちも利用せざるを得ないため、当局がいくら取り締まってもなくなることはない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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