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「金正恩印の豪華マンション」が直面した危機的状況

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 金正恩総書記がメガプロジェクトのひとつ、「平壌市5万世帯住宅建設構想」。郊外の寺洞(サドン)区域の松新(ソンシン)・松花(ソンファ)地区の住宅建設は今年4月に完成し、引き続き、和盛(ファソン)地区の建設が進められている。

 ところが、ここへ来て工事が中断に追い込まれそうな状況となっていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

 平壌の情報筋によると、今年2月に着工された和盛地区1万世帯住宅建設は、骨組みを組み上げる工事が終わり、内装工事を行う段階まで進んだ。それには電気のケーブル、照明、タイル、アルミニウムサッシなどが必要だが、いずれも外貨を使って輸入しなければならないものだ。

(参考記事:金正恩氏、日本を超えるタワーマンション建設…でもトイレ最悪で死者続出

 金正恩氏が推し進めるプロジェクトだけあって、指示通りに年末までに完成させなければならないのだが、内装工事の資材は、工事を担当する各機関が自主的に調達するように指示が下された。しかし、財源が枯渇して工事が中断しそうになった。

 そこで首都建設委員会は、各機関に対して、マンションの一部を先に分譲して、資金を調達するよう指示を下した。

 北朝鮮では、個人は土地や不動産を所有できないことになっている。ただし、使用許可権(入舎証)を得ることは可能で、これを売買する形で不動産市場が形成されている。

 北朝鮮で住宅建設を行うに当たっては、トンジュ(金主、ニューリッチ)の投資を集め、その資金で建設を行う方式が取られていた。

 完成後に部屋を受け取ったトンジュは、転売して利益を得るというものだ。今回は順番が逆になったが、結局トンジュの経済力なしでは、ビッグプロジェクトはなし得ないことが証明された形だ。

 先立って完成した松新・松花地区のマンションにも、トンジュが触手を伸ばしていることが伝えられている。大きな儲け話の少ない北朝鮮で、住宅建設プロジェクトはまたとないチャンスなのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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