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北朝鮮で餓死者続出…金正恩「どんちゃん騒ぎ」の悪夢再び

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 北朝鮮の南西部、黄海南道(ファンヘナムド)には広大な平野が広がり、昔から穀倉地帯として知られる。本来なら豊かな地域のはずだが、北朝鮮はこの地域を「新解放地区」、つまり朝鮮戦争前は韓国領だった地域で、思想的に問題があるとして、冷遇し続けてきた。

 その最たる例が、2012年の大飢饉だろう。延安(ヨナン)、白川(ペチョン)、青丹(チョンダン)を中心とした地域では、極端な食料不足で2万人とも言われる餓死者を出した。

 金正恩総書記の「指導者デビュー」を祝う「どんちゃん騒ぎ」を数カ月にわたり続けるため、黄海南道の食糧を、権力が根こそぎ徴発してしまったために起きた惨事だ。

 それから10年。当時ほどではないとは言え、餓死者が続出する事態となっている。少雨による作物への被害に加え、新型コロナウイルス対策としてのロックダウンで、外出もままならないからだ。現地の様子を、デイリーNK内部情報筋が伝えた。

 道内中西部の新院(シノン)を中心とした農村地域では、少雨と水害で昨年は不作に終わり、1〜2ヶ月分の食料分配しか受け取れなかった。また、ロックダウンで市場が閉鎖され、新院と白川では20人の餓死者が発生した。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

 この人々は、山菜粥で糊口をしのいできたが、ロックダウンで外出が許されず、それすら得られなくなり、次々にたおれたという。

 また、白川郡の邑(郡の中心地)にある協同農場でも、昨年分配された食糧が底をつき、「田植え戦闘」の時期であるにもかかわらず、農場に働きに出てこれない農民が続出している。

 情報筋は、今回のロックダウンで「餓死した」「倒れた」との話が絶えないとし、そんな状況でも当局はこれといった対策を立てられず、ロックダウンのレベル調節の話をするばかりだと伝えた。

 黄海南道は、韓国との軍事境界線と接しているため、警備が非常に厳しく、脱北や密輸ができるような地域ではない。むしろ、韓国から最も遠く離れた、中国との国境に接する地域の方が、脱北や密輸が相対的に容易で、脱北して韓国に住む家族からの送金などで豊かな暮らしをしてきた。

「黄海南・北道の住民は、(国境に接する地域とは異なり)農業しか頼るものがなく、国が食糧問題を解決してくれなければ、この難局を自らの力で抜け出すのは難しい」と情報筋は語っている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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