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北朝鮮の「工作員養成機関」で集団感染、金正恩氏も濃厚接触か

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 韓国に派遣する工作員を養成する金正日軍事政治大学。朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の軍官(将校)を養成する金日成軍事総合大学。北朝鮮を代表するこの2つの軍事大学で、新型コロナウイルスのクラスターが発生した。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

 平壌の情報筋によると、国内でのコロナ感染者発生の公式発表があった週、金正日軍事政治大学では既に5人の感染者が発生していたが、17日の時点で数十人まで感染が広がった。その多くが、先月25日に行われた、朝鮮人民革命軍の創建90周年の軍事パレードに参加した者だと伝えられている。ちなみにその数は300人に達する。

 高熱と呼吸困難を訴える学生を対象に、国家非常防疫司令部が検査を行い、感染と診断された者は救急車に乗せられ、郊外の隔離施設に送られている。また、軍事パレードに参加した学生全員を寄宿舎1棟に集めて隔離し、毎日検温を実施している。軍事パレードに参加していない学生も、今月末まで寄宿舎で隔離され、外出が禁止された。

(参考記事:「軍人虐殺、失禁する人が続出」金正恩”コロナ対策”の残酷ショー

 また別の情報筋が金日成軍事総合大学の学生との通話で聞いた話として伝えたところでは、国家非常防疫司令部は、同様に軍事パレードに参加した同大学の学生に対しても検査を行い、発熱患者のほとんどが感染者と診断され、その数は30人に達したという。

 軍事パレードに参加した300人の学生は全員寄宿舎に隔離され、毎日検温を受けている。それ以外の学生や教授も、今月末まで外出が禁止され、寄宿舎で隔離されている。

 両校とも、重要な人材養成機関だけあって、中央からは解熱剤などの医薬品、マスクなどが充分に供給されているとのことだ。

 この軍事パレードでは、サポートに当たった平壌商業大学の学生の間でもコロナ感染が広がり、金正恩総書記が彼らと記念写真を撮影したことから、濃厚接触した可能性が浮上している。

 今回の事態を受けて、教育省は11日、平壌市内の小中高校、大学に対して対面授業を中止し、オンライン授業に切り替えるよう指示を下したと、平壌の別の情報筋が伝えている。全国的には12日からオンライン授業に切り替わったと、平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋が伝えている。

 しかし、一部のエリート学校の学生を除けば、自宅にパソコンを持っているのは少数で、ほんど意味をなしていない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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