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士気を高めるつもりが…北朝鮮軍の小隊長「禁断の踊り」で逮捕

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(ウェブサイト「朝鮮の今日」)

 韓国のアイドルグループ「防弾少年団(BTS)」が北朝鮮の若者の間で人気を集めていることは、デイリーNKでも何度も報じているが、韓流の流入に神経を尖らせている北朝鮮当局は、取り締まりを強化している。

 昨年8月、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士3人が、BTSのダンスを踊った容疑で逮捕されたが、同様の事態がまた起きた。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 朝鮮人民軍では、兵士の士気を高めるために日課を終えた後に2時間、「群衆文化娯楽時間」が開かれるが、咸鏡北道の鏡城(キョンソン)に駐屯する第9軍団で今月11日、同様の集まりが開かれた。その場で警備中隊第1小隊のキム小隊長(20代)が、兵士たちを元気づけるとして、ダンスを踊った。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけ」女子高生が裁かれた禁断の行為

 ところが翌日、彼は軍団の保衛部(秘密警察)に逮捕されてしまった。容疑は、BTSのダンスを模倣したものを踊ったというもの。

 取り調べで彼は「自分はBTSが誰かも知らない、ただ兵士たちの指揮を士気を高めるために、故郷で踊っていたダンスを踊ったに過ぎない」と陳述したとのことだ。彼の言っていることが本当ならば、元々は誰のものかわからないほど、韓流文化が根を下ろしていることを示す。

 似たような事例は他でも報告されており、当局も知らぬ間に北朝鮮文化そのものが韓国化しつつあるということだ。

 キム小隊長は普段から部下の悩みに耳を傾けるなど善行で知られ、上官や部下の評価がよかったこともあり、生活除隊(不名誉除隊)や出党(朝鮮労働党からの除名)などの処分は受けなかったとのことだ。

 上述の3人の兵士が、6カ月間の取り調べを受け、平安南道(ピョンアンナムド)价川(ケチョン)にある社会安全省(警察庁)参加の14号または17号管理所(政治犯収容所)送りになったのとは対象的だ。

 北朝鮮は、昨年12月の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会で「反動的思想・文化排撃法」を採択し、韓流に対する取り締まりを強化しているが、摘発事例が相次ぐばかりで、韓流排除には程遠いのが現状だ。法律も取り締まりも、韓流の浸透を若干遅らせる程度の効果しか発揮できていないようだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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