独裁10年の「罪と罰」(7)

 北朝鮮は2017年11月29日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」を試射して以来、中長距離の弾道ミサイル発射を行っていない。最近では新型の短距離弾道ミサイルの試射を複数回にわたり行っているが、以前とは異なり、金正恩総書記は現場で立ち会っていない。

 北朝鮮としては、戦略核兵器であるICBMはすでに完成しており、最高指導者が陣頭指揮を取るべき事業ではなくなったとの立場なのだろう。また金正恩氏と「蜜月」だったトランプ氏がホワイトハウスから去り、北朝鮮に厳しい態度を取るバイデン現政権が誕生した国際環境を踏まえ、今は核戦力をいたずらに誇示する時ではないと判断しているのかもしれない。

「トイレを爆撃」

 しかし、たとえ核戦力を誇示する必要が改めて生じたとしても、金正恩氏は以前と同じ行動を取れるだろうか。

 北朝鮮は2016年から2017年にかけて弾道ミサイル開発に拍車をかけたが、このときはまだ、日韓におけるF35Aの配備が本格化する前だった。今後、配備がさらに進み、日米韓のF35A(およびB)と米軍のF22を合わせて200機ものステルス戦闘機に包囲された状況で、金正恩氏が現場でサイル発射を指揮するという冒険に出られるかは疑問だ。

 F35AやF22ならば、北朝鮮に気付かれないまま防空網を突破することができる。

 かつて米国のある軍事評論家は、金正恩氏の専用トイレをピンポイント爆撃して北朝鮮をけん制するよう提唱したが、これは北朝鮮にとって、とうてい冗談とは受け止められない話だ。なぜなら、独裁者の身の安全は、体制の安定に直結するからだ。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

 金正恩氏の祖父である金日成主席は60歳のとき、長男の金正日氏(後の総書記)が後継者となることを国家の既定路線として定めた。それから1994年に死亡するまで、北朝鮮は金日成・金正日の二頭体制により統治された。その期間の前半は東西冷戦の真っただ中であり、北朝鮮はソ連・東欧の社会主義圏により保護されてもいた。

 冷戦が終結し、ソ連・東欧社会主義圏が崩壊した後、金正日氏の一頭体制となった北朝鮮は、一気に不安定な状況に置かれた。それでも、金正日氏には20年以上にわたり独裁体制を守ったキャリアがあった。三男の金正恩氏を後継者に決めたのは最晩年になってからだったが、2011年12月に死亡した時点で、少なくとも3男4女が成人しており、その中の金正恩、金正哲、金正男の3人は後継者候補として取り沙汰されていた。

 では、金正恩氏の次は誰が金王朝を担うのか。子供はいるようだが、年齢はごく幼い。まだ30代の金正恩氏は、祖父や父親並みの寿命をまっとうすれば、あと40年は体制を率いることもできる。

 しかし、金王朝が誕生した当時と比べ、北朝鮮を取り巻く環境がいっそう激変した40年後の世界に向けて、金正恩氏はどのような独裁者を自分の跡継ぎとして育てることができるのか。彼がその具体的なイメージを描けているとはとうてい思えない。

 結局のところ、独裁体制の最大の弱点は、独裁者その人なのだ。