北朝鮮軍内部で「仁義なき戦い」…厳冬控え炭鉱争奪戦
酷寒の冬を前に、北朝鮮軍が燃料の確保に追われている。そしてその過程で、部隊間での炭鉱の「争奪戦」が行われているという。
平安南道(ピョンアンナムド)の軍内部情報筋によると、国防省は先月25日、「2021〜2022年作戦及び戦闘政治訓練の成果的進入のための全軍訓練準備及び越冬準備計画」を下達した。
越冬準備と共に、まもなく始まる冬季訓練に関する命令書だが、注目すべきは、今年から全軍に経理部隊を正規編成せよというくだりだ。これは、部隊で使用する石炭を自主的に生産、確保せよという意味合いだという。
朝鮮人民軍では、物資の輸送、後方関連の業務を担当する仕事を「経理」と称しているが、かつては非常設で、必要に応じて労働力を動員して業務を行っていた。しかし、常設の部隊となり、分隊(8〜14人)、小隊(3〜40人)単位の人員を炭鉱に出向させ、国から供給される石炭では足りない部分を補うことになる。また、部隊の状況によっては中隊、大隊(数百人)単位の出向も認められるとのことだ。
平壌の軍内部の情報筋も、指揮部の後方部の下に経理部隊が編成されたとし、各部隊では「薪問題を自主的に解決する模範を見せよう」という思想教育が行われていると伝えた。
この情報筋は、今回の命令はいわゆる「毀損した軍民関係の正常化」にもつながると指摘している。食糧の確保を巡り、軍と協同農場の間でトラブルになることが少なくないが、炭鉱でも同様の事態が起きているのだという。
「『人民軍の越冬準備用の石炭は全面的に部隊が自主的に生産し、人民から奪ってはならない』と上部は強調している。軍がすべて持ち去れば、産業の現場に支障をきたすことを認識しているようだ」(情報筋)
炭鉱に出向させられた軍の要員はいかにして石炭を確保するのか。
「廃坑や生産条件が苦しい坑道などの操業を請け負い、部隊別の越冬準備を行う膨大な任務が課せられた」(情報筋)
石炭を掘り尽くした坑道や、事故のリスクが高いなどの理由で炭鉱労働者が入らない行動に入って、石炭を掘るということだ。事故が多発することは、火を見るよりも明らかだろう。
不正行為が起こらないように監視が行われるとのことだが、既に起きていると情報筋は伝えている。各部隊の後方部は、少しでも条件のいい坑道を確保するために、国防省の後方総局との間で「裏取引」を行っているとのことだ。
核やミサイル開発に巨額の予算を投じる一方で、兵士の石炭ひとつまともに配給できず自主調達させ、その現場では黒いカネが飛び交う。これが北朝鮮軍の一つの横顔だ。