1990年代後半の北朝鮮を襲い、数十万人を餓死に至らしめたとも言われる大飢饉「苦難の行軍」。その後、市場経済化の進展などで食糧事情は徐々に改善し、食うや食わずの状態は脱していたが、国際社会の制裁や、昨年1月からのコロナ鎖国で事態は再び悪化した。

金正恩総書記は、食糧不足を公式に認めると同時に、軍糧米の放出、配給を行うよう特別命令書を出したと伝えられている。

食糧難の根底には、国内の穀物需要すら満たせないほど生産性の低い農業の実態があるが、上記に挙げた制裁とコロナ鎖国に加え、様々な要因により、例年にも増して凶作となると見られている。

平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、7月中旬から下旬にかけては田んぼの2度目の草取りが終わるころなのに、未だに手を付けられていないところが多いと伝えた。外から見えるところだけ形ばかりの草取りを行っただけで、後は雑草だらけで、稲の生育に問題があるだろうと見ている。

北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は6日、「非常な覚悟と熱情で湧き上がる農業戦線」との見出しの記事で、全国的に田畑の草取りが営農工程通りに進んでいると報じているが、現場の実情とはかけ離れたプロパガンダに過ぎないということだろう。

草取り遅延の理由として情報筋が挙げたのは、農薬と労働力不足だ。いずれも今年に限ったことではないが、今年は例年にも増して深刻で、除草剤や肥料などは去年の8割しか確保できていない。また、「農村支援」の動員を逃れようとする都市住民が多いことも影響しているとのことだ。

当局は、日照りと台風の被害を未然に防ぐために備えよとの指示を下しているが、こちらも人手不足で手がつけられていないと、情報筋は述べている。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

今年の作況が低調となることが予想される中、幹部学習会や住民講演会では「代用食糧の調達にも力を入れるべき」との話が出るほどだという。代用食糧とは、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のときに食べられた、稲の根飯、泥炭パンなどのことを指す。いずれもその名の通り、稲の根を混ぜて炊いたご飯、泥炭と小麦粉を混ぜて焼いたパンだ。

「国が今から代用食糧の話をしているのは、予想より穀物の作況が悪いという意味ではないか。農民も昨年より悪くなるだろうと予想している」(情報筋)

一方、首都・平壌の南にある黄海北道(ファンヘブクト)では、日照りが深刻化している。

現地のデイリーNK情報筋は、段々畑に植えられたトウモロコシなどの作物が異常高温で枯れつつあり、道の農村経営委員会は23日、非常会議を開き、全道挙げて「水やり戦闘」に立ち上がろうと呼びかける事態となっている。

これを受けて道内の各組織、機関、学校は、割り当てられた農場に、従業員や生徒を午前4時から7時と、午後6時から8時の時間帯に分けて派遣し、水やりをさせている。それも、タンク車を動員できる機関を除けば、いずれも人力とタライやバケツに頼っている。道人民委員会(道庁)と農村経営委員会は、道の朝鮮労働党委員会の指示に基づき、「密」を避けるために、動員する時間帯をずらすなどの作業も行っている。

日照りはよほど深刻なようで、情報筋は、今回動員されている人の数は、田植えや草取りのときの2倍に達すると見ている。ただ、広大な畑に人の手だけで水やりをするには限界があり、トウモロコシは次々に枯れつつあるとのことだ。その様子を見た住民からは「焼け石に水」だとの声が上がっている。

灌漑用水路さえあれば解決することだが、昨年この地域は台風による甚大な被害を受け、その復旧に人手が取られ、水路の工事にまで手が回らなかったという。