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金正恩「居眠り処刑」も生々しく…全軍に特別警備を発令

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮の金正恩総書記が先月29日の朝鮮労働党中央委員会第8期第2回政治局拡大会議で、幹部の怠慢により「国家と人民の安全に大きな危機を醸成する重大事件を生じさせた」と宣言。その責任を問われて複数の最高幹部が更迭された中、軍の最高司令部が全軍に対し、6月30日から今月8日まで24時間態勢の「特別警備」を発令したもようだ。

更迭された最高幹部の名前は明らかにされていないが、北朝鮮メディアが伝えた拡大会議の様相から、党政治局常務委員と党書記、党中央軍事委副委員長などを兼務する李炳哲(リ・ビョンチョル)元帥、そして朴正天(パク・チョンチョン)軍総参謀長(元帥)らである可能性が高いと見られている。

そうした中で発令された特別警備命令は、軍内で動揺が起きるのを警戒してのものである可能性がある。そして、その期間はなぜ8日までなのか。もしかしたらそれまでの間に、更迭された幹部らに対し、さらなる「処分」が下るのだろうか。

(参考記事:【写真】玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…

軍高官に対する厳罰と言えば、2015年4月に玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)元人民武力部長が極めて残忍な方法で処刑された事件が今も記憶に生々しい。玄永哲氏の処刑を巡っては一説に、会議中に居眠りしたことを金正恩氏に見とがめられたことが原因ともされている。

北朝鮮軍内部の消息筋は1日、韓国デイリーNKに対し、「最高司令部が28日に『夏季訓練の最初の週である6月30日17時から7月8日17時までを特別警備勤務期間として命ずる』とする命令を下した」と伝えた。

消息筋によると、北朝鮮軍は過去にもこの時期に「夏季訓練に対する敵の妨害策動を警戒せよ」との趣旨から、特別警備勤務期間を設定してきたという。ただ、例年は最高司令部ではなく総参謀部の命令であり、特別警備の時間も夜明けや夕暮れ時などに限定されていた。

こうした点から、現地では今回の命令が、拡大会議で明らかにされた「重大事件」と関連したものであると見る向きが多いようだ。消息筋はまた、「解任された幹部が誰であるかはまだ明らかにされていないが、『軍糧米』の件で問題が生じたという話が広がっている」とも述べている。

金正恩氏は党中央委員会第8期第3回総会で「人民の食糧状況が緊張している」と述べ、その解決を厳命していた。そのような状況下で、軍糧米を巡る何らかの不正について李炳哲氏と朴正天氏の責任が追及されるならば、どのような刑罰が下っても不思議ではない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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