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「革命の首都の誇りも地に落ちた」犯罪多発で金正恩に失望

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(平壌写真共同取材団)

立ち並ぶタワーマンション。きらびやかなネオン。店頭に並ぶ高級品の数々。「社会主義のショーウィンドー」とも呼ばれる北朝鮮の首都・平壌は、他の地方とは比べ物にならないほど豊かで、市民の生活レベルは中進国並みと言われてきた。

そんな平壌が最近、荒れに荒れている。

地方では、食べ物を求めて朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士が、農場や民家を襲撃するなどの犯罪が頻発している。そして長期化する経済制裁と新型コロナウイルス対策の国境閉鎖により、豊かだった平壌でも犯罪が多発するようになったと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

平壌市の司法機関の幹部によると、最近に入って市の郊外で空き巣が相次いで発生している。コロナ鎖国の長期化で平壌市民に対する配給も止まってしまい、生活苦に喘ぐ人が続出した結果だと、この幹部は説明する。

(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた

全国的には崩壊してしまった配給システムだが、保衛部(秘密警察)や安全部(警察署)など体制の維持に欠かせない治安機関や軍需工場の従事者、平壌市民に対する配給は続けられてきた。ただ、同じ平壌市民と言っても、「30号対象」と呼ばれる市内中心部の6区域に住む住民と、「410号対象」と呼ばれる残りの14の区域と郡に住む住民とでは、居住許可、配給などの面で差がつけられている。今回、空き巣多発が指摘されているのは後者のエリアだ。

その手口は極めて大胆で、真っ昼間に民家に押し入り、金目のものは手当たりしだいに盗む。幹部のもとに上がってきた報告によると、家族全員が昼間に外出する住居や、外出時間が長い家、トンジュ(金主、新興富裕層)やチェポ(在胞、元在日朝鮮人)の家がターゲットになっている。つまり犯人は、充分に事前調査を行い、狙いを定めた上で犯行に及んでいるようだ。

幹部は、事件の一例を挙げた。市内の東大院(トンデウォン)区域に住むある市民は、帰宅して空き巣にやられてすっからかんになっているのを発見、衝撃のあまり泣きわめいたという。当局は捜査に乗り出したが、逮捕はおろか犯人像すらつかめず、近隣住民は被害者に同情すると同時に、「安全部はまともな捜査ひとつできない」と厳しい批判の声を上げた。

この幹部は、以前の平壌では窃盗事件があるにはあったが、今のように1日に複数件発生するようなことはなく、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」のころにも、ここまでではなかったと振り返った。

一方で、平壌のデイリーNK内部情報筋は2007年、保安員(警察官)から聞いた話として、1990年代半ばの食糧難の時期から現在に至るまで、統一通りの周辺や近隣を流れる大同江で、遺体が毎日1体は発見されていると述べている。犯罪被害者か否かについては触れていないが、上述の幹部と、現場の警察官では認識が異なっているようだ。

いずれにせよ、平壌の「安全神話」が崩れつつあることに違いはないだろう。

「当局は、平壌を革命の首都、人民の地上の楽園と宣伝して、いくら苦しくても平壌市民にだけは基本的な食糧配給を行ってきたが、国連の制裁とコロナ事態が長期化し、市民への配給が途絶えて久しい。最近の平壌は世知辛くなり、至る所で窃盗が起きて、人々はが恐々としている」(幹部)

平壌市の司法機関の別の幹部も、平壌市郊外で窃盗が多発していることを認め、その数が1日に10数件に達し、捜査に着手できない事件が山積みになっていると実情を語った。

住民が玄関ドアに二重三重の鍵をかけていても、犯人は鍵を壊さず、ちょうつがいを外してドアごと取っ払う手口で家に侵入するという。逮捕した容疑者は、タバコ1本吸い終わるまでのわずか数分で、ちょうつがいを外せると供述したとのことだ。

それを知った市民の中には、ちょうつがいをより大きく上部な鋼鉄製のものに取り換える人もいれば、玄関ドアをいくら丈夫にしても空き巣は防げず、通報しても犯人は捕まえてもらえないと、もはや平壌も安全地帯ではなく地方都市のようになったと嘆く人もいる。

この幹部は、平壌が「選ばれた人々だけが住める社会主義の地上の楽園」というプロパガンダとは異なり、中心部に住む特権層を除くほとんどの市民は、経済難に喘ぎ、不安な日々を送っていると伝えた。

金正恩党委員長は昨年6月7日に行われた朝鮮労働党中央委員会第7期第13回政治局会議で、「首都市民の生活保障において早急に解決すべき問題を具体的に指摘し、住宅建設をはじめとする人民の生活保障に関する国家的な対策を強く立てることについて強調した」と、国営の朝鮮中央通信が報じているが、この幹部によると、この発言に対する平壌市民の期待は高かったという。

しかしそれも、「今では失望に変わった」。配給も途絶え犯罪が頻発するようになり、「平壌市民としてのプライドも地に落ち、国際社会の制裁が首都までも占領した」などと口々に語っているという。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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