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狙われる女性商人…コロナ禍の北朝鮮で残虐犯罪が多発

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮の首都・平壌は「選ばれし者」の都市だ。成分(身分)の良さ、忠誠心の高さや国への貢献度が認められた人しか住めない特別なところで、居住することそのものが特権と言えよう。

生活面でも優遇されている。国からの配給が途絶えて久しい地方とは異なり、最近まで配給が続けられてきた。しかし、経済難が深刻化した昨年初めから配給の遅配、欠配が増え、市民の間では不満と不安が高まった。治安の悪化も深刻なようだ。

(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた

平壌のデイリーNK内部情報筋によると、昨年12月22日、市内の平川(ピョンチョン)区域で40代の主婦が強盗に襲われ殺害される事件が起きた。市場での商売を終えて、夜道を歩いているときに何者かに襲われたが、抵抗したため、刃物で刺されたものと思われる。

同様の事件は同月3日に西城(ソソン)区域、8日は大同江(テドンガン)区域でも発生している。いずれのケースでも、暗い路地を一人で歩いていた女性が襲われ、無残に殺害された。

情報筋は、平壌で最近、残虐な強盗殺人が多発しているとして、その主な原因として深刻な経済難を挙げた。国際社会の制裁、梅雨の大雨、台風など相次ぐ自然災害、新型コロナウイルスの三重苦で、生活が困窮した人々が、犯罪に手を染めるというのだ。

特別な平壌と言えども、1990年代後半には大飢饉「苦難の行軍」の影響をまともにくらった。当時は犯罪が多発、平壌郊外の新興住宅地では、殺人、自殺、餓死かは不明だが、毎日のように遺体が発見され、中にはバラバラにされたものもあったという。

当局は、連続強盗殺人の捜査に乗り出しているが、一向に犯人は捕まらず、平壌は寒々しい空気に包まれつつあり、市民の間では自嘲とも諦めとも取れるこんな言葉が広がっているという。

「コロナにかかって死んでも、餓死しても、死ぬのは同じ」

絶望的な状況で自暴自棄となり、罪を犯してしまうということだろう。そこには、「このままでは年を越せない」という心理も働いたと思われる。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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