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金正恩氏も乗ったスキー場リフト、墜落して死亡事故

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
馬息嶺スキー場のリフトに乗る金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

北朝鮮東海岸の元山(ウォンサン)市郊外にある馬息嶺(マシンリョン)スキー場。

金正恩党委員長は、最高指導者の座についた直後の2012年春に建設を指示、巨額の資金と大量の人員を投入して、わずか8ヶ月で完成させた。決められた日程より早く完成させることを是とする北朝鮮では、そのスピードの速さを「馬息嶺速度」と名付け、大々的に宣伝した。

計画はそれにとどまらず、スキー場の近隣の海辺に、元山葛麻(ウォンサン・カルマ)海岸観光地区という巨大リゾートを建設を進めた。いずれの工事でも、速度ばかり重視して働く人の安全を無視した工事が行われたことで事故が多発、多くの人命が失われた。

事故は、施設の完成後にも続いている。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、先月24日、馬息嶺スキー場の施設点検に動員された設備課の40代と20代の男性職員が、リフトの点検を行っていた。このリフトは、2013年12月にここを訪れた金正恩氏も乗ったものだ。点検作業の途中、突然ケーブルが切れて、ゴンドラが地上に落下。2人は死亡した。

(参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真

報告を受けた中央では、事故の原因究明に当たるよう指示を下した。情報筋によると、スキー場では今までも事故が多発していたが、人命が失われたのは今回が初めてで、中央からはスキー場の設備安全問題に万全を期すよう指示があったという。現在は、綿密な点検を行いつつ、中央からの次の指示待ちの状態だという。

また、国際的なスキー場である馬息嶺でこのような事故が起きたことが外部に漏れないように、スキー場管理所職員にかん口令を敷いた。北朝鮮は、事故や事件などネガティブな事象をすべて「恥ずかしい」「国や最高指導者の対面に傷をつける」と考え、隠蔽を図る。

ところが、人の口に戸は立てられないものだ。スキー場の職員は、家族や親戚に事故の件を話してしまった。

「スキー場では事故が多いから、今年の冬は来ない方がいい」

こうした話が元山市全域から他の地域にまであっという間に広がり、スキー場利用を避けようという空気が広がっている。もちろん、今のようなコロナ禍でなくても、北朝鮮でスキーを楽しめるのは、一部の特権層に限られるが。

多発する事故の原因について情報筋は触れていないが、わずか8ヶ月のやっつけ工事で急ごしらえしたスキー場に問題が起きるのは驚くに当たらないことかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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