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北朝鮮の金持ち女性がハマる「禁断の映像」と最悪の仕置き

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩夫妻とモランボン楽団(朝鮮中央テレビ)

韓国では今、料理研究家のペク・チョンウォン氏がテレビに出演しない日がない。同国内はもちろん、日本を含む海外でも店舗網を広げるレストランを経営し、YouTubeのチャンネル登録者数は447万人を数える。

同氏の番組は北朝鮮国民、とくに富裕層の女性たちの間で人気だ。とはいえ、自由に見られるわけではない。それどころか隠れて視聴したことが当局にバレたら、厳しすぎるお仕置きを受けることになる。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によれば、道内の順川(スンチョン)市で先月末、3人の女性がペク・チョンウォン氏の映像を見ながら料理をしていたことが発覚し、保衛部(秘密警察)により緊急逮捕される出来事があった。

北朝鮮では、韓流のドラマや映画は視聴が厳禁されており、ペク氏の映像もここに含まれているわけだ。

逮捕された女性たちはいずれも30代前半で、朝鮮労働党や行政機関の幹部を親に持つ娘か、幹部家庭に嫁いだ女性だという。

彼女らの行為が発覚した経緯はこうだ。9月9日の建国記念日に際し、集まって一緒に料理をした女性らのうちひとりが、隣家にひとりで住むおばあさんにおすそ分けを届け、その際に「ペク先生という人の料理法に従って作ってみた」と説明した。

すると間もなく、地区班長(連合町会長のようなもの)がおばあさんを訪ね、いっしょに料理を食べながら「どういう人だか知らないけれど、ペク先生という人の料理法で作ったらしい」という説明を聞いた。

そして数日後、安全部(警察)の協力者である地区班長は担当者と会った際、「何か変わったことはないか」と聞かれ、「何も変わったことはない。ただまあ、最近こっちへ嫁入りした女性がペク先生という人を真似て作った料理を食べてみた」と答えた。この地区班長もペク先生がどんな人物か知らないまま、告発するつもりもなしに世間話として語ったのだ。

ところがこの言葉に、安全員のレーダーが反応した。間もなく女性らの住居が家宅捜索され、韓流ドラマなどが記録されたSDカードとCD7枚が押収されたという。その中には、韓国での脱北者の暮らしぶりに関するテレビ番組の映像もあり、いっそう問題が大きくなったという。

前述したとおり、女性らはいずれも幹部家庭の一員であり、親のコネやワイロの力で危機を脱する可能性がある。しかし何らかの理由でそれができなければ、管理所(政治犯収容所)送りという最悪の運命を辿ることになるかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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