逮捕者すでに数百人…金正恩氏を不安にさせる「新興勢力」の正体

金正恩氏(平壌写真共同取材団)

中国発祥の新興宗教「法輪功」は一時は人気を集めたが、中国政府は1999年、邪教であるとし活動を禁止、厳しい弾圧を行っている。その後も、豊富な資金と組織で中国以外の全世界で布教活動を行っており、最近になって北朝鮮の首都・平壌でも急激に広がりつつある。

北朝鮮では実質的に、宗教活動は禁止されている。当局は最近になって公開処刑も再開しており、今後、どのような強硬手段に出るか心配だ。

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米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の平壌の情報筋によると、平壌市保安局(警視庁に相当)は、各地域の保安署(警察署)に「法輪功を信じていたり知っていたりする者は自主的に通報せよ」との布告文を張り出した。つまり、自首せよとのことだ。自首期間が定められており、終了後に摘発された場合には重罰に処すというものだ。

ところが、この布告と取り締まりがが逆に法輪功に対する市民の興味を煽ってしまった。「法輪功は宗教であると同時に、体と精神の健康に有益な体操を含む瞑想修行の一種」(情報筋)という認識が広がり、アプローチしようとする人が増えてしまったのだ。

先月の第1次取り締まりの期間中に市内の船橋(ソンギョ)区域(人口14万8000人)だけで100人が摘発された。当局は取り締まりの成果があがったと喜んでいるかと思いきや、摘発者数のあまりの多さに逆に当惑していると情報筋は伝えた。

「1次取り締まりだけで数百人の信者が摘発され、保安署内部には緊張感が漂っている。今後どれほどの信者が逮捕されるか予測不可能」(情報筋)

市内全域で逮捕された人は数百人。いずれも労働鍛錬隊や教化所(いずれも刑務所)送りとなった。

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なぜ船橋区域に信者が集中していたかは謎だが、平壌で法輪功を広めているのは、中国と北朝鮮を行き来している貿易会社の幹部たちだという。もしかしたら、彼らが多く住む地域なのかもしれない。ちなみにこの区域には、各国の大使館が密集し、イスラム教(シーア派)のモスクも存在する。

別の情報筋は、この取り締まりを「法輪功という新興宗教との戦争」と表現した。

「政府は宗教はアヘンだとか麻薬だとか言って、近寄る者に過酷な処罰を下してきた。最近は法輪功まで登場し、市民は当局がどのような対応をするか息を殺して見守っている」(情報筋)

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それにしても、なぜ法輪功がこんなに流行るのだろうか。

「呼吸法を含めた武術の鍛錬、運動、人間の魂を司る神秘の精神的能力を誰でも持ちたいと思うから」(情報筋)

北朝鮮は、占いが広く行われている土地柄だけあって、スピリチュアルなものが受け入れられやすい。当局は時々、銃殺を含めた重い刑罰で対処しているものの、政府や党の幹部がハマっているほどで、根絶は非常に困難なようだ。

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また、国際社会の制裁や米朝交渉の行き詰まりで国内経済がにっちもさっちもいかない状況となり、将来に明るい展望が持てないという北朝鮮の状況も関係している。

情報筋は「法輪功などが主張する神秘の理論と俗説は、未来に希望が持てない平壌市民にとって、干上がった土地に雨水が染み込んでいくように広がる。市民の間では『信者を80日間どこかに吊り下げても死なない』という荒唐無稽な話が広がっているが、そんな話を信じる人が増えている」と語っている。