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さすがの金正恩氏も寒すぎて中断した「超ブラック事業」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
雪の中、三池淵郡を視察した金正恩氏(2018年10月30日付朝鮮中央通信)

北朝鮮が国を挙げてのメガプロジェクトとして進めている両江道(リャンガンド)三池淵(サムジヨン)開発。氷点下20度を下回る極寒の中でも工事が強行されていたが、ついに一時中断が指示された。

質を無視して無理やり工期に合わせる「速度戦」は北朝鮮の悪弊の一つで、橋梁やマンションの崩壊事故が起きるなど、悲惨な大事故につながってきた。当局は最近になって「千年責任万年保証」などのスローガンを掲げ、建設の質の向上キャンペーンを始めた。

(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

また、極寒の中での工事強行で死者も発生しているが、それらを防ぐために工事を一時中止させたものと思われる。

(参考記事:氷点下20度の野外でタダ働き、若者の命を奪う「ブラックな現場」

両江道のデイリーNK内部情報筋によると、正月を迎える前に建設に動員された突撃隊(民間人からなる建設部隊)に対して休暇命令が下され、軍部隊と警備人員を除くすべての人員が現場から撤収した。

突撃隊は、旅団、大隊別に恵山(ヘサン)駅に移動し、吉州(キルチュ)、咸興(ハムン)を経て平壌に向かう第2列車、中朝国境に沿って西にある慈江道(チャガンド)の満浦(マンポ)を経て平壌に向かう第4列車に分乗して帰郷した。人員の輸送のため、一般人の乗車が制限された。

今回、三池淵建設指揮部が建設の一時中止措置を取ったことについて、平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は「三池淵のみならず恵山など北部地方では、極寒の中での工事は行わないという元帥様(金正恩党委員長)の指示が下された」と伝えた。工事を強行すると、建物に問題が発生する可能性があるからとのことだ。

(参考記事:金正恩氏、日本を超えるタワーマンション建設…でもトイレ最悪で死者続出

今回の措置に対して国内では歓迎の声が上がっている。とりわけ、列車を突撃隊員専用にして速やかに帰郷させたことが評価されているようだ。

「今回の建設中断の指示と同時に下された休暇のおかげで、突撃隊員は自宅で正月を過ごせている。国が専用列車を運行したことに対しても大いに満足している」(情報筋)

金正恩氏は、何が何でも2年以内に工事を完成させよと指示を下しているが、もし建設一時中止が今後も続くなら完成は大幅にずれ込むことが予想される。ちなみに三池淵に春が訪れるのは4月になってからだ。

(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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