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北朝鮮が拷問か…死亡の米大学生の歯列変形。米メディアが写真公開

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮で拘束後、記者会見するオットー・ワームビアさん(朝鮮中央通信)

米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)韓国語版は24日、米バージニア大学生のオットー・ワームビアさん(当時22)が北朝鮮で約1年半にわたり拘束され、昨年6月に昏睡状態で解放された直後に死亡した問題で、ワームビアさんの下の歯列が大きく変形していたことを示す写真を公開した。

(参考記事:【写真】大きく変形したワームビアさんの歯列

写真は、2014年からワームビアさんの歯の治療に当たっていたタッド・ウイリアムス博士が10日、ワシントンDCの連邦地裁に提出した陳述書に添付されていたもの。ワームビアさんの両親は4月26日、息子は北朝鮮の金正恩政権から「残酷な拷問を受けて殺害された」として、北朝鮮を相手取り、同地裁に損害賠償訴訟を提起している。

写真は、北朝鮮で拘束される以前に撮られた、ワームビアさんの下の歯が見える顔写真とX線写真、そして死亡後の検視の際に撮影された頭蓋骨のスキャン画像の3枚(下)。

たしかにこれらを見比べると、拘束前のワームビアさんの歯並びはきれいなのに、スキャン画像では下の中央の歯2本が歯列の内側へ大幅に移動していることがわかる。

VOAによれば、ウイリアムス博士は陳述書で、自分がワームビアさんの診療を最後に行った2015年5月27日以降に、何らかの物理的な力が作用したのは明らかであると述べているという。また同地裁には、ワームビアさんの歯を2011年から2013年にかけて治療したマーレイ・ドーク博士も陳述書を提出。ドーク氏はこうした変化は何らかの衝撃によって発生するのが一般的だと指摘しているという。

一方、ワームビアさんの検視を行った監察医は「拷問の痕跡はみつからなかった」と証言しているとの情報もあり、連邦地裁でどのような判断が下されるかはわからない。

(参考記事:「性拷問」の証言も…北朝鮮は「外国人人質」に何をしているのか

しかし仮に、連邦地裁が「拷問はあった」と認定するようなら、非核化を巡って進行している米朝対話にも影響が及ぶ可能性もある。今は非核化を優先し、北朝鮮の人権侵害から目を背けているトランプ米大統領も、米国の裁判所が自国民の「拷問死」を認めたとあっては、これまでとまったく同じ態度を取り続けるのは難しくなるかもしれない。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

サウジアラビアの記者殺害事件を巡り、当初はサウジ政府を擁護しながら、真相が明らかになるにつれ距離を置かざるを得なくなったのと同じ構図になりかねないということだ。

VOAが公開したワームビアさんの写真。上の2枚ではきれいに並んでいる歯のうち2本が、最下段のスキャン画像では口の内側に大きく移動している
VOAが公開したワームビアさんの写真。上の2枚ではきれいに並んでいる歯のうち2本が、最下段のスキャン画像では口の内側に大きく移動している

(※【参考】VOAのハングル記事原文=ワームビア主治医「物理的な力により歯の変形が起きた」

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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