Yahoo!ニュース

金正恩氏の「権威失墜」…北朝鮮の危険指数は世界最悪レベル

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)は7日までに、北朝鮮南西部の黄海北道(ファンヘブクト)・黄海南道(ファンヘナムド)で先月下旬、台風19号により大規模な水害が発生し、76人が死亡、75人以上が行方不明になっていると明らかにした。被災民の数は少なくとも数千人、多くは5万人を超えるとの報道もある。

近年、北朝鮮では毎年、こうした水害が起きている。台風の大規模化の影響もあるが、北朝鮮当局の危機管理意識の低さが被害を拡大させているのは明らかだ。

(参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真

国連の各機関が最近、共同で発行した「2018人道主義の危機と災害リスク評価報告書(Index for Risk Management)」は、北朝鮮当局の危機管理指数を、世界191カ国のうち43番目にランキングさせた。この指数は、順位が高いほど危険度が高いことを示している。北朝鮮の危機管理指数は、下位23%に属する最低レベルと評価されたのだ。

もともと北朝鮮は、大事故や災害が起こった際、国の体面を守るため、そして安全対策の不備を国内外から非難されないよう被害規模を隠蔽する悪弊がある。過去にも、橋梁の建設現場で500人が一度に死亡する地獄絵図のような大惨事が起きたにもかかわらず、事故の詳細は一切明らかにされなかった。

(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

また、ダムや発電所などのインフラを守るため予告もなく放水するなど、人命軽視と言わざるを得ない現象も見られる。

(参考記事:「あんた達のせいで皆死んだ」住民見殺しで金正恩体制の権威失墜

また、北朝鮮当局は最近、9日の建国70周年記念行事の準備に気を取られ、災害への対応が後回しにしているとの指摘が、同国内から漏れ伝わっている。

そうでなくとも、今年は異常な猛暑と日照りにより、農業が壊滅的なダメージを負ったと見られている。北朝鮮の食糧事情はかつてと比べ大幅に改善しているが、それも国内で一定量の収穫が確保されてこそのものだ。

なし崩し的な資本主義化の進行で貧富の格差も拡大しており、貧困層は、わずかな食糧価格の変動からも大きな影響を受ける。

金正恩党委員長は最近、韓国、中国、米国との首脳会談を相次いで実現させ、得意満面である。しかし、このような災害が永遠に繰り返されるのなら、いずれ金正恩氏の権威は地に落ちる。

(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

国民の生命と財産を守るという最も重要な使命をないがしろにしていては、決して「偉大な指導者」として歴史に記されることはないだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

高英起の最近の記事