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「もう脱北はやめとけ」と子供を説得する北朝鮮の親たち

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

中国には、数万とも数十万とも言われる数の脱北者が潜伏している。その多くは出稼ぎ目的で国境を越え、ゆくゆくは北朝鮮に戻る意思を持った人々や、人身売買の被害者たちだが、中には韓国や第三国行きを目指している人もいる。

(参考記事:「中国人の男は一列に並んだ私たちを選んだ」北朝鮮女性、人身売買被害の証言

そんな人が、北朝鮮に残してきた家族から「韓国行きは止めて北朝鮮に戻ってきた方が良い」と諭されるケースが増えているという。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が語る。

「ある親は、中国に住む脱北者の子どもに『最近は情勢がよくなっているから、リスクを犯してまで韓国に行かなくても良いのではないか。平和な時代が近づいているのだから、ここ(北朝鮮)でも十分に生きていける』と伝え、韓国行きを思いとどまらせようとしている。ほかにも、3年前に中国へ行った娘を持つ親が、同じようなことを言っている」

このような雰囲気は、南北、米朝、中朝と相次いで行われた首脳会談を受けて、近い将来、国際社会の対北経済制裁が解除されるのではないかという期待感が生み出したものと思われる。

韓国統一省の統計によると、今年6月の時点で韓国に入国した脱北者は488人。このペースだと、今年中に韓国入りする脱北者の数は1000人を割り込むことになる。この数字は2009年に過去最高の2914人に達して以降、減少を続け、昨年は1127人にとどまった。これは、脱北が本格化し始めた2002年とほぼ同じ数だ。

これについては、中朝両国が国境警備を強化したことが減少をもたらしたというのが一般的な見方だが、朝鮮半島の融和ムードが脱北者数の減少に拍車をかける可能性が高まっていると見るべきかもしれない。

ただ、こうした家族による脱北引き止めには、保衛部(秘密警察)が介入している可能性も排除できない。保衛部は、国に残った家族を脅迫、懐柔するなど、あの手この手で脱北者を連れ戻す作戦を繰り広げてきた。

(参考記事:美人タレントを「全身ギプス」で固めて連れ去った金正恩氏の目的

最近においても、保衛部から強要され、家族を説得している人がいるかもしれないということだ。

このように家族から説得された脱北者の多くは、中国で「様子見」している状態だという。

「中国にいる脱北者は、より完璧に有利な局面が来ることを待ち望んでいる。情勢が良くなれば、強制送還されるリスクも減るはずで、その恐怖心から解放されることこそ、彼らが期待するものなのだ」(情報筋)

中国政府は、自国内にいる脱北者を「経済目的の不法入国者」とみなしており、逮捕すれば北朝鮮に強制送還してしまう。送り返された脱北者には地獄のような日々が待ち受けているのだ。また、北朝鮮に自主的に帰国した場合でも、身の安全が100%保証されているわけではないのである。

(参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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