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北朝鮮国民の7割「核開発に否定的」米研究所が世論調査

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮国民の7割が、金正恩党委員長が進める核兵器開発に否定的に捉えているとの調査結果が今月に入って発表された。

米国の戦略国際問題研究所(CSIS)は、特別研究プロジェクト「ビヨンド・パラレル」(38度線を越えて)の一環として、昨年夏から秋にかけて北朝鮮の各地に住む24歳から64歳までの男性30人、女性20人を対象に世論調査を行った。回答者は兵士、労働者、学生、地域の党幹部など様々な階層に属している。

世論調査とは言っても、電話調査や調査員のアンケートによる調査ではない。CSISの協力者が回答者に接近し、世間話のような自然な対話の中で質問の答えを引き出す形で行われた。調査を行っていること、答えていることが保衛部(秘密警察)の知ることになれば、どうなるかは火を見るよりも明らかだ。北朝鮮では、庶民が国家の政策に異を唱えることなど絶対に許されない。

(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」

ちなみにこのプロジェクトは昨年、同じ方法で北朝鮮国民36人を対象に調査を行っている。

(参考記事:北朝鮮国民の75%、収入のすべてを「市場での商売」で得る

今回の調査結果によると、回答者の70%が「核兵器は国の誇りの根源ではない」と答えた。男性は77%が核兵器を否定的に見ているのに対して、女性は60%に留まった。また、72%が「核兵器は北朝鮮を繁栄させない」と答えたが、男性は83%、女性は55%だった。

男性は国の機関や国営企業などのフォーマルセクターに、女性は市場などのインフォーマルセクターに従事していることが多く、女性のほうが韓国、米国のラジオなどから流入して市場を通じて拡散する口コミ情報に明るいと一般的には言われているが、今回の結果はそれが必ずしも正しくないことを示している。

報告書は、回答者が核開発について具体的にどのようなことを語ったかについて触れている。次の通り、いずれも核開発について厳しい見方をしている。

「核開発は民族を滅ぼす悪魔の武器だ」(中朝国境地帯の朝鮮人民軍<北朝鮮軍>の中級兵士)

「核は皆を死に至らしめる最強の毒薬、開発してはならない」(軍事境界線に近い地域でヤミ金業を営む女性)

「核開発は経済発展にとても邪魔になる、資金を費やすからだ」(咸鏡北道<ハムギョンブクト>の鉱山労働者)

「クレージーだ、皆が苦しい生活をしているのに、お上(金正恩氏)は自分のことしか考えない」(人民班長<町内会長>を務める中年女性)

一方で、苦しい暮らしという現実と、核開発を比べて、政権のやり方に理解を示そうとする人もいた。

「庶民は食べるのに精一杯なのに核ばかり作っている。核開発には数億かかるらしいが、国力になるからやるのだ」(60歳の鉄道労働者)

「核があるから手のひらのように小さい朝鮮(北朝鮮)でも大国は手を出せない」(労働党の幹部)

「米国、日本、中国などの大国がわが朝鮮に手が出せないのは核があるからだ、だから核開発はしなければならない」(北部の若い女性教師)

核開発を肯定的に捉える人もいるが、50人中の7人で少数に過ぎず、レトリックは当局のプロパガンダをなぞっている。回答者が本当にそう考えている可能性もあれば、本音を語っていない可能性もある。

(参考記事:「アメリカ軍に勝てるはずない…」北朝鮮の幹部に動揺広がる

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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