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「芸術団虐殺事件」に隠された金正恩夫人の男性スキャンダル

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏と李雪主氏(労働新聞より)

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金正恩党委員長は、最高指導者になってから二つの楽団を創設した。一つ目が、今や北朝鮮を代表する楽団となったガールズグループ「モランボン楽団」。そして、二つ目が2015年7月に創設された「青峰(チョンボン)楽団」だ。

二つの楽団が創設されるなか、「血の雨」を浴びながらその歴史に終止符を打たれたのが銀河水(ウナス)管弦楽団だ。金正恩党氏の妻・李雪主(リ・ソルチュ)氏がかつて所属し、人気を誇った銀河水管弦楽団はなぜ解散させられたのか。

恋人をズタズタにして処刑

金正日総書記によって2009年に創設され2012年まで精力的に公演活動を行っていた銀河水管弦楽団は、2013年に解散させられる。解散から2年後の2015年には、銀河水管弦楽団のメンバー4人が、平壌郊外の「美林(ミリム)ポル」という場所で銃殺された。北朝鮮での銃殺刑は珍しくないが、メンバーらは凄惨きわまりない殺され方で銃殺されたと伝えられている。

(参考記事:スパイ容疑の芸術家を「機関銃で粉々に」…北朝鮮「人道に対する罪」の実態(1)

銀河水管弦楽団が解散させられたという情報がもたらされた2013年8月、日本と韓国のメディアは、ポチョンボ電子楽団の元人気歌手でありモランボン楽団の団長である玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏が処刑されたと報じた。

しかし、玄氏はしばらくして、第9回全国芸術大会に登場。マスコミと国家情報院の情報に間違いがあることが明らかになった。

ちなみに、玄氏は昨年10月には朝鮮労働党中央委員会の委員となった。韓国で来月9日から開かれる平昌(ピョンチャン)冬季五輪へ芸術団を派遣することを協議する南北実務者会談に参加するなど、歌手としては異例の出世コースを歩んでいる。

玄氏処刑説は誤報だったが、銀河水管弦楽団などの有名芸術団メンバーが「ポルノ撮影」事件で罪に問われ、公開処刑されたのは事実とされている。

(参考記事:美貌の女性らが主導…北朝鮮芸術家「ポルノ撮影」事件の真相

この話が伝えられた当初、ポルノ映像には李雪主氏も登場していたとの噂があったが、これは事実ではなかったようだ。だが、銀河水管弦楽団解散の背景には、絶対に表には出てはいけない李雪主氏の「男性スキャンダル」があったのだ。

「異性問題」で芸術団メンバーの体がズタズタにされる様子をみせつけられた女性歌手らは失禁していたと、脱北者で韓国紙・東亜日報の名物記者でもあるチュ・ソンハ氏も伝えている。

(参考記事:金正恩氏「美貌の妻」の「異性問題」で殺された北朝鮮の芸術家たち

しかし、「異性問題」をもってせい惨な方法で公開処刑することに怒りを禁じ得ない。過去には、金正恩氏の父・金正日氏は自らのスキャンダルを隠すため、自分の愛人をズタボロにして殺したことがある。この父にしてこの子ありといったところだろうか。

(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇

強制解散の憂き目に遭った銀河水管弦楽団はどうなったのだろうか。実は、行き場を失った楽団員たちの救済措置として創設されたのが、冒頭に述べた青峰楽団だという見方がある。楽団の解散と創設の裏には、まだまだスキャンダルが隠されているのかもしれない。

銀河水管弦楽団の解散と時を同じくして始まった金正恩氏の恐怖政治が芸術団にも及ぶ中、北朝鮮のみならず海外においても着々と知名度をあげ存在感を高めている楽団がある。それが、玄松月氏が団長を務めるモランボン楽団だ。(つづく)

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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