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脱北に失敗した4歳男児の父が悲痛な訴え「北朝鮮に息子を殺させないで」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

中国遼寧省の瀋陽で、脱北者10人が公安当局に逮捕され、北朝鮮への強制送還の危機に瀕していることはデイリーNKジャパンでも既報のとおりだが、そのうちの女性の夫が米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)のインタビューに応じ、救出を訴えた。

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2015年に脱北し現在は韓国在住のイ・テウォンさんは、最近脱北して中国で韓国行きを待っていた妻と電話で連絡を取り合っていた。

妻と4歳の息子は、瀋陽の長距離バスターミナルそばのアジトに他の脱北者たちと共に身を潜めていた。その中の5人が、一足先に韓国に向かおうとアジトを発ったが、今月4日の午後5時ごろ、中国の公安当局に逮捕された。

この事態を受け、ブローカーから「今いるところは危ないから移動する」と聞かされた妻は別のアジトに向かったが、そこで逮捕されてしまったという。

イさんは、人脈を通じて、5日午後7時から9時の間に瀋陽の北バスターミナルのそばの派出所に10人が勾留されていて、6日午前には別の場所に移動させられたことを確認したものの、その後の足取りはつかめていない。

瀋陽駐在の韓国領事館に助けを求めたが、返ってきた答えは「中国当局は領事館からの面談要求を拒否している、人道的配慮を要請する以外に方法がない」というものだった。また、イさんは韓国外務省の民族共同体海外協力チーム(脱北者救出関連部署)にも助けを求めたが、9日の時点で回答は得られていない。

イさんは、北朝鮮に強制送還されることを恐れて自ら命を断つ脱北者がいることに触れて、「最後まで諦めないでほしい、変な考えは起こさずにどうか生きて韓国にたどり着いてほしい」と、自殺を思いとどまるよう涙ながらに妻に訴えた。

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また、中国政府に対しては「北朝鮮は4歳の子どもでも殺すかもしれない。政治犯収容所に一生閉じ込めておくかもしれない。どうか北朝鮮に送り返さず、母親とともに韓国に来られるように助けてほしい」と訴えた。

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韓国の国民日報は、ラオス経由で韓国に向かおうとしていた10代から40代の脱北者5人が、先月28日に吉林省白山市で逮捕されたと報じている。さらに今月6日には鴨緑江を渡っていた6人が逮捕されるなど、先月から今月7日までに逮捕された脱北者は21人にのぼる。

一連の脱北者逮捕に関して、中国外務省の華春瑩報道官は7日の定例記者会見で「具体的な状況は認識していない」「国内法、国際法、人道主義の原則にのっとり問題を処理するというのが中国の一貫した立場」と原則論を述べるに留まった。

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デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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