北朝鮮軍内に渦巻く不満…金正恩氏の「無茶ぶり」が原因

金正恩氏(朝鮮中央通信)

核兵器と弾道ミサイル開発を進め、世界中を相手に戦争でも始めそうな勢いの北朝鮮。しかしその内実を見ると、経済的な困窮は相変わらずで、本当に戦争遂行能力を有しているのか激しい疑問が生じる。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の総参謀本部は今年9月、道内駐屯の第12軍団をはじめとする全国の部隊に対して軍糧米を供出するよう指示を下したという。国防力の根幹に関わる内容だけに、金正恩委員長が直接下した指示であるのは間違いない。

餓死者が続出

軍糧米は本来、国が軍に配給するものだ。配給しておいて、足りなくなったからといって差し出せというあべこべの命令に、兵士たちの不満が渦巻いている。

「この世に食糧を持たない軍隊がどこにあるのか」

「武力で国を守るのが使命なのに、コメを差し出せだなんてわれわれはいつから農民になったのか」

ここ数年、豊作が続いてきた北朝鮮だが、今年は日照り、水害、冷害などにより凶作が伝えられている。供出させられた軍糧米の行き先について情報筋は触れていないが、食糧不足は相当深刻なようだ。

食糧事情が好転したと言われる北朝鮮だが、軍隊だけは例外だ。食糧を国からの配給に頼っているが、輸送過程で横流しされたりするので、末端の兵士のもとに届く頃には量が大幅に目減りしている。そのため、彼らは常に腹をすかせている。

兵士たちは飢えを凌ぐため、集団で農場を襲撃し、作物や家畜を略奪する。また、国境の川を越え、中国に侵入し盗みを働く兵士も多かった。しかし、中朝両国が国境警備を強化したため、その被害は北朝鮮の一般市民がこうむることになる。国民を守るべき軍隊が、国民を苦しめているのだ。

これ以外にも、部隊内で性的虐待が横行するなど朝鮮人民軍の軍紀はびん乱の極みにあるわけだが、今回の「コメ回収」の件を見れば、それもまた国家のご都合主義から生じているとも言える。

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そもそも、この軍糧米という制度は、北朝鮮が人民をいかに粗末に扱っているかの象徴のようなものだ。

北朝鮮が「苦難の行軍」と呼ばれる大飢饉に見舞われていた1990年代中盤、先軍政治を打ち出していた金正日総書記は、「国を守る軍隊を空腹にしてはならない」として、一般住民から食糧、つまり軍糧米を供出させることを指示した。一般住民を犠牲にしてでも、軍隊を守るという棄民政策とも言えるものだ。

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飢えに苦しんでいた人びとが、命令されたからとコメを差し出すわけがない。そこで当局は、軍糧米の供出に協力しない人に対して、日常的な食糧配給、社会的、政治的恩恵を剥奪すると脅かしたのだ。そして、粥をすすって飢えを凌いでいた人びとから、コメを取り上げたのだ。

苦難の行軍の間、餓死した人は少なくとも数十万人、100万人以上がなくなったとの説もある。そこまでの犠牲を払ったのに、食糧は兵士のもとにまともに届かず、餓死者が続出した。

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現在の北朝鮮の食糧事情は、かつてに比べ大幅に改善されている。ただ、国民経済のなし崩し的な資本主義化が進行し、貧富の格差が広がっている今、貧困層は食べ物などの価格がわずかに上昇しただけでも大きな影響を受ける。

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実際、一部地域では餓死者が発生したとの情報も流れている。果たして、「苦難の行軍」の再発はありうるのだろうか。