「戦争になるならいつ死んでも同じ」北朝鮮国民から投げやりな声
最近、北朝鮮の朝鮮労働党や行政機関の中堅幹部らの間で、戦争勃発に対する懸念が広まっていることについては本欄でも伝えた。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が北朝鮮国内の情報筋の話として伝えたところでは、中堅幹部たちはワイロを貯めて築いた不動産などの資産を処分し、今のうちに金塊に変えて置こうと血眼だという。
一方、RFAは、これとはまったく異なる反応を見せる庶民らの様子についても伝えている。咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によれば、「一般住民は『どうせ死ぬなら、いつ死んでも同じだ。戦争が起きたからと言って、今よりどれほど悪くなるのか』などと話している」という。
また、農村地帯では最近、人民班(町内会)ごとに、有事に退避する防空壕の点検を行っているというが、「住民の大多数は、たった2メートルの深さの防空壕に逃げ込んだところで(米軍から)核攻撃を受けたら生き延びられないことを知っている」(情報筋)のだという。
核戦争は世界中の誰にとっても脅威だ。しかし平時においてもロクな行政サービスを受けられず、大事故や災害時には政府の無能ぶりによって苦痛を受けている北朝鮮国民が、戦争を誰よりも恐れるのは当然のことと言える。
(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図)
また、北朝鮮国内ではすでに、経済制裁の影響によって穀物価格の上昇が始まっているとも伝えられている。
北朝鮮は、大量の餓死者を出した1990年代の「苦難の行軍」と呼ばれる大飢饉以降、食糧事情が大幅に改善した。しかし、国家による配給システムは破たんしたままで、庶民は現金で食べ物を買わなければならない。
国民経済のなし崩し的な資本主義化が進行し、貧富の格差が広がっている今、貧困層は危険な労働や売春などに走り、日々の糧をどうにか確保している状態だ。そのような人々は食べ物の価格がわずかに上昇しただけでも大きな影響を受ける。
(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち)
また、庶民の生活を顧みない独裁体制が、身勝手な政策を継続し、そこに金正恩党委員長の未熟さによる失政が重なれば、北朝鮮の人々の身にいわれなき悲劇が起きる危険性もある。
今のところ、我々にとって朝鮮半島での戦争勃発は、「将来、もしかしたら起きるかもしれない危機」に過ぎないが、北朝鮮の庶民にとっては、すでに「今そこにある危機」となっているのだ。