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米国人学生が死亡…脱北女性「拷問刑務所」の実態を証言

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏

北朝鮮外務省は23日、昏睡状態のまま抑留していた米国人学生オットー・ワームビア氏が帰国後に死亡した問題について、「死亡したのが労働教化(懲役刑)中に拷問、殴打されたためであるという事実無根の世論が広がっている」などとする報道官談話を発表した。

この問題を巡っては、ワームビア氏の遺族を中心に、「拷問されたはずだ」との声が上がっている。

(参考記事:「北朝鮮で自殺誘導目的の性拷問を受けた」米人権運動家

しかし一方、北朝鮮ウォッチャーの間では、いずれ「対米カード」とするつもりだったであろうワームビア氏に、北朝鮮が意図的に拷問を加えたかは疑問であるとの声も出ている。

人を絶望させる匂い

いずれにせよ、北朝鮮がワームビア氏の置かれていた状況について、詳細な情報を出すとは思えない。ということは結局、いつまでも何が起きたかわからないままなのだろうか。

と、思っていたら、米国のローゼンスタイン司法副長官が気の利くことを言ってくれた。「北朝鮮で労働教化(hard labor)は拷問(torture)を意味する」と発言したのだ。

言われてみればその通りだ。教化所をはじめ、北朝鮮の拘禁施設で起きている出来事は、我々の感覚から言えば拷問そのものだ。

(参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

具体的にどんなことが行われているのか、2008年から2年間、全巨里(チョンゴリ)教化所(刑務所)に収監された脱北女性の証言を以下に紹介する。

問:教化所では、受刑者は暴力を振るわれているのですか?

「暴力は常にありました。担当の先生(看守)に殴られたり、見張り兵に殴られたり。受刑者同士の喧嘩もありました。担当の先生に殴られるケースが多いのですが、幸い私の班の担当の先生は、あまり人を殴ったりしない人でした。しかし、『野菜班』の先生は本当にひどい人でした。その班の人の半分が怪我をさせられていましたから。肋骨が折れたり、腰を痛めたりして、出所後の後遺症に苦しめられているそうです」

問:教化所での生活でほかに耐え難かったことは?

「しょっちゅう病気になり、40度の熱が出たりしました。栄養失調で死ぬ人を毎日見ましたが、そういう人が病原菌の媒介になるんです。衛生状態は言葉で言い表せないほどでした」

問:栄養失調で死ぬ人はどれぐらいいましたか?

「死んだ人は週に1回、毎週月曜日に、全巨里教化所の裏にあるプルマン山で焼かれていました。私は『ジャガイモ班』所属だったのですが、死体を燃やすところのすぐ隣の畑で働いていたので、その過程を目の当たりにしました。死体は、牛車2台に積んで運んできます。牛車はだいたい500キロの荷物を積むことが出来ます。

そして男性の受刑者が死体を背負って山に登り、薪に火を付けて焼いていました。そばには遺骨の灰がうず高く積み上がっていて、作業をするときにはそこを踏んで通らざるを得ませんでした。教化所での生活は、死んだ人を横に寝かせたままで食事をするのが日常と言ってもいいほどでした」

問:受刑者が死亡したら遺族には通知されるのですか?

「そんなことをするわけがありません。3年の刑を終えたら、教化所から家族のもとに通知書が届きます。出所させるから連れて帰れと。身寄りのない人も少なからずいたのですが、そういう人は出所させてもらえませんでした。それで死んだらプルマン山で焼かれて一巻の終わりです。そうやって死んだ人は数多く存在します。

プルマン山の方を見ることすらできない人も多かったんですよ。私はプルマン山のそばのジャガイモ畑で仕事をしていたから、見たくなくても見ていましたが。死体を焼く匂いは、常に教化所中に漂っていました。その匂いは、人を絶望させるものでした。だから、生き残ろうとがんばりました。

教化所で刑期を終えて生きて出所できるのは、10人に6人ぐらいでしょうか。残りの4人は誰にも知られないまま、灰になってしまうのです。ある日、プルマン山に登る途中で何かに躓きました。見てみると、燃え残った人の足でした。それを見て我に返りました。こんな風に死んではいけないと」

人権は、すべての人が等しく享有しているものだ。つまり、指弾されるべきはワームビア氏に対する人権侵害だけではないということだ。今回の件をきっかけに、北朝鮮国内の人権問題により多くの関心が集まることを望む。

(参考記事:「幹部は私の腹にノコギリを当て切り裂いた」脱北女性、衝撃の証言

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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