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北朝鮮レストラン「美人ウェイトレス」のサービスが復活か

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
集団脱北した北朝鮮レストランの女性従業員たち

中国浙江省寧波市の北朝鮮レストラン(北レス)で働いていた女性従業員ら13人が集団脱北する事件が起きたのは昨年4月のことだ。

この事件を受けて、金正恩党委員長は、世界各地の北朝鮮レストランに対して「韓国人客を出入り禁止にせよ」との指示を下した。

それまで、北レスにとって韓国人観光客はいちばんの上客だった。韓国社会でも、北レスの美人ウェイトレスに対する好感度は高く、情勢が険悪なときにも両国の人々のふれあいの場となっていた。

(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発

それだけに、韓国人客の「出禁指令」は北レスの経営を直撃するとともに、客の側からも惜しむ声があった。

それから1年余り。同じ北レスでも、韓国人客への対応が分かれるようになっている。

韓国の対北朝鮮放送局、国民統一放送とデイリーNKの共同取材班は、中国遼寧省の丹東にある北レス「平壌高麗館」を訪れた。中朝国境を流れる鴨緑江のほとりにあり、女性従業員120人を含む200人の北朝鮮従業員が働く、世界最大規模の北レスだ。

取材班は中国朝鮮族のガイドと共に席についた。笑顔で迎えた女性従業員だが、オーダーを受ける際に「南朝鮮から来ましたか」と何度も聞いてきた。取材班が答えをはぐらかしていると、「出ていってくれ」と要求された。従業員の硬い表情に、韓国人に対する警戒心が透けて見えた。レストランを出ると、入口の扉は固く閉ざされた。

中国朝鮮族にガイドによると、かつては韓国人だろうが誰だろうが歓迎してくれたが、集団脱北事件以降は、韓国人であることがバレたら追い出されるようになったという。

一方、吉林省延辺朝鮮族自治州延吉の北レスの雰囲気は大きく異なっていた。

(参考記事:北朝鮮「美女カラオケ店」ぼったくりサービスの実態

店に入った取材班は、注意深く行動していたが、従業員が取材班は警戒する様子はなかった。音楽の演奏が始まると、従業員は取材班の手を取り、マイクを渡して一緒に歌を歌うほどだった。ある従業員は「実は私の祖父も南の出身だ」と語り、韓国について話を交わし、冗談を言うほどだった。

ガイドが事情を説明した。

「北朝鮮当局がいくら韓国人との接触を禁止しても、すべてを監視、統制できない」

「カネを払って食事をしたいとやって来た客を追い返すわけにはいかない」

「そこそこの給料をもらっているから、雰囲気もいいようだ」

中国では、核実験、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮に対する反感が高まり、北レスを避ける傾向が強まり、もはや中国人客を頼りにはできなくなりつつある。本国からの「上納金を収めよ」「韓国人客は取るな」との相反する指令に、北レスの苦悩が深まりつつあるようだ。

(参考記事:20代美人ウェイトレスを直撃……「北朝鮮レストラン」の舞台裏

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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