「観光客射殺」の北朝鮮ビジネスに、魅力的な投資先はあるか
中国政府直属のシンクタンクの幹部が最近、「北朝鮮への投資は勧められない」と発言して注目されている。周知の通り、北朝鮮には多くの中国資本が投資を行っており、中国政府も多大な支援を行ってきた。
それにもかかわらず、中国国務院(内閣に相当)「発展研究中心・世界発展研究所」の卞暁春執行副所長は、中国経済網の番組「経済熱点面対面」に出演し、北朝鮮への投資は危険だ、中国企業には北朝鮮への投資を勧めない」と語ったのだ。
同所長がこのように語った理由は、日韓などでは考えられない、北朝鮮特有のリスクにある。
たとえば、1998年に韓国が始めた金剛山観光では、ツアー客の女性を朝鮮人民軍兵士が射殺。そのせいでツアーが中止に追い込まれるや、北朝鮮当局は韓国側の主催企業の資産を一方的に没収した。
また、北朝鮮で携帯電話事業を展開するエジプトのオラスコムは、北朝鮮当局の資本規制により利益を本国に送金することができず、苦境に陥っている。
さらには、ワイロの悪慣行がある。
実は、北朝鮮でビジネスを行う上で最も難しいのは、労働力の確保だとされる。なぜなら、17歳から30歳までの若者の多くが兵役に就き建設現場に送り込まれているせいで、自由労働者がいないためだ。
通常、北朝鮮で労働者を雇用するには担当機関に申し込むが、その際に機関の幹部から多額の賄賂を要求されるのである。
ここまで問題だらけでも、中国企業から人気を得ている投資先もある。
当局から商売の許可を得ずにモグリで営業する、個人の縫製業者だ。北朝鮮では、衣料類は国内工場で一括生産されてきたが、そうした工場で勤務していた経験者が独立し、自宅にミシンを数台置いて国内外から製品を受注しているのだ。
国内では韓流ファッションのデザインを手本とした服がよく売れる一方、中国の貿易業者からも絶賛の出来栄えを誇る「プーチンコート」なるヒット作も出ている。どうしてプーチン氏の名前がついたのか由来は判然としないのだが、とにかく北朝鮮ビジネスにおいては、国家の悪評に比して民間はかなり頑張っていると言える。
中国の専門家も、北朝鮮投資について語るならこの辺まで言及して欲しい。そしてついでに、金正恩氏に対して「経済の主導権を民間に譲り渡せ」とでも進言してくれれば、なお有難いのだが。